エピローグ

第39話

高級ホテルの最上階の、巨大でふかふかベッドに座らされてから、数分が経った。



只今、私の足元で跪いた貴也が、目の前でシンプルなのに妙に立派な指輪の入った小さな箱を差し出しています。



「……えっと……?」



「俺と結婚して下さい」



私の間違いでなければ、結婚してた気がするんだけど。



「あの……私達、夫婦じゃなかった?」



「夫婦だよ。でも、ほら、始まりが始まりだったし、ちゃんと改めてと思いまして」



相変わらず満面の笑みを浮かべている貴也に、私の心臓が段々動きを早め始め、顔に熱が集まる。



何だか変な感じだ。



愛よりお金が大切だと思ってたのに、貴也を愛して、愛してもらえて、それだけで幸せなのに、これ以上何をどうしたらいいんだろう。



「顔が赤いな……可愛い……」



「からかわないでっ……」



「ねぇ、返事、くれないの?」



笑っていた貴也の顔が、スっと愛おしそうな顔に変わる。



髪を撫でながら、その手が頬を滑るだけで体が固くなる。



「迪香……ちゃんと、夫婦になろう……」



魅力的なお誘いだ。



素敵なお誘いがなくても、私の答えは決まっているのに。



「はい。よろしくお願いします」



笑ってそう答えた。



意外だったのは、その後の貴也の顔だった。



いつもみたいに余裕な顔で笑うのを想像していたのに、何でこんなに嬉しそうにふにゃふにゃな顔で笑うんだろう。



そのままベッドに座る私の腰に抱きついた。



「あー……こんなに幸せでいいのか……」



私のお腹に頭をグリグリ擦り付けながら、呻いている貴也が愛おしくなってゆっくり頭を撫でると、ふにゃりとした気持ちよさそうな笑顔がこちらを見る。



大きな体の子供みたいで、クスリと笑う。



「手、出して」



言われるがまま手を差し出すと、はめていた指輪に連なるように指輪がはめられる。



「迪香もはめてよ」



男らしいのに綺麗な長い指に、同じように指輪をはめた。



二つ並んだ指輪を見て、不思議に思う。



「これって、こういう指輪なの?」



「知り合いに頼んで、違和感のない形で作ってもらった。二つもあると、何か迪香をしっかり縛ってる感じするだろ? 本当は二つくらいじゃ足りないけど」



凄く危ない事を言われましたが、この際聞かなかった事にしよう。



「早速式の準備をしようか」



「え? 式?」



「ん? 何?」



まさか、式まで挙げるなんて思ってなかったから、驚いてしまう。



「別にいいよっ! ほら、お金もかかっちゃうし、指輪だって二つも貰ってしまったしっ! 今でも十分幸せだから、これ以上贅沢させてもらうわけにはいかないしっ!」



必死になる私に、貴也はまるで捨て犬みたいな顔で見つめてくる。



まるで垂れた耳が見えるようで、グッと言葉に詰まる。



「俺に、迪香の可愛いウエディングドレス姿、見せてくれないのか? 見たかったのに……」



あからさまに落ち込んでいじけている貴也に、私が拒否できるわけもなく、折れてしまう。



「わ、わかったから……じゃぁ……小さめで、控え目なヤツで……お願い、します……」



暗かった顔が嘘だったかのように、ぱあっと明るくなる表情に、悪い気はしなくて。



踊りだしそうな勢いで、蒲田さんに連絡をしている貴也の背中を見ながら、近寄る。



後ろから手を回して腰周りに抱きついた。

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