第13話
会場は、高級ホテルの会場を借り切っているらしく、物凄く広くて迷子になりそうだ。
「よぉ、貴也、来たか。久しぶり、元気そうだな。お前、結婚したんだってな、おめでとうっ!」
「ああ、ありがとう。開業おめでとう」
握手を交わした二人を見ながら、私は出来るだけ邪魔にならないように、黙って隣に並んでいる。
明る目の茶色の髪を綺麗にセットして、グレーのタキシードに、貴也さんに負けないくらいの長身を包んだ、笑顔が似合う明るい印象の爽やかな男性だ。
「式はしないのか? 結婚式は女の夢だろ」
みんながみんなそうじゃないだろうけど、確かにほとんどの女性は、結婚式を一度は夢見るのだろう。
貴也さんを見ていた目が、こちらを見て、ドキリとする。
「これはこれは、さすが貴也が見初めただけはある。こんな美人で素敵な女性を、何処で見つけてくるんだよ。ズルいぞ」
「運がいいんだよ、俺は」
悪態を吐きながら、楽しそうに話す二人に挟まれ、いたたまれない。
「初めまして、奥様。ご主人とは学生時代から色々切磋琢磨させてもらってます、
手を取られ、甲に口付けられてビクリとする。
「おい、人の妻に色目を使うな」
「おっと、失礼。外国暮らしが長かったもんで、つい。すみません」
「い、いえ、大丈夫です。こちらこそ慣れていなくて、すみません」
どう言っていいのか分からず、あたふたする私に、稲野さんは変わらずニコリと笑っている。
「いやいや、初々しさも更に魅力的ですよ。そのままでいていい。こんな世界にいるとね、そういった女性を見れる事の方が貴重なんで、かなり癒されますよ」
腰に回された貴也さんの手に、少し力がこもった気がした。
「本当に毎日毎日癒されててね……もう彼女を一時も離したくないんだよ……」
「ポケットに入れて持ち歩きたいってやつだな」
「そう、それだよ。困ってしまうね、まったく」
「女より仕事優先の仕事馬鹿な貴也が、ここまで骨抜きにされるとは。非常に興味深いよ」
何とも言えず、もう微笑むしか方法が分からない。
安心させてくれるはずの貴也さんが、私を困らせてどうする。
その後少し話をしてから、稲野さんは他の方の所へ去って行った。
「楽しい方ですね」
「ああ、気が合うし、良い奴だし、何より尊敬出来る奴なんだ」
嬉しそうにそう言った貴也さんを見て、私も釣られて微笑んだ。
「あー、そんな可愛らしい顔で微笑まれたら、今すぐ何処かへ引きずり込んでしまいたくなるな……」
「ま、またそんな事言って……」
腰にあった手がお尻に滑る手つきがいやらしい。
「人前は、やめてください」
「痛っ……釣れないなぁ……」
お尻を撫でていた手を叩き、睨む。
「そんな可愛い顔で睨んでも、俺を煽るだけだよ」
ニヤリと笑った貴也さんが、ちゅっと触れるだけのキスをする。
人で遊んでるのか、この人は。
「少しは緊張解れたみたいだね。顔が引き攣らなくなった」
ほんとにこのスパダリめ。緊張解すなら、素直に解してくれれはいいのに。
「あまり可愛い顔しないで。みんなが君を好きになってしまうからね」
改めて腰に手を回して引き寄せ、こめかみに口付けた。
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