第23話
メッセージを送り、最後の仕上げをして帰る準備をする。
御手洗の鏡の前で髪を結い直し、改めて自分を見る。
可愛いと言われも、やっぱり分からない。
他の女性社員達が、みんな可愛くて綺麗で輝いていて、私は地味で化粧っ気もなくて面白くもないのに。
眼鏡を外してみても特に変わらない地味な見た目に、ため息が出た。
エレベーターを待っていると、貴也さんから着いたとメッセージが来て、それに返信してスマホをカバンに戻す。
会社を出ると、少数の女性社員が集まっていた。
不覚にも、これは予想してなかった。
そういえば、彼が目立つのをすっかり忘れていた。
あまりいい予感がしない。
見るも明らかな高級車に凭れ掛かる姿が、無駄に様になる貴也さんが、私を見つけて優しい笑顔を浮かべる。
女性社員が黄色い悲鳴を上げる。
「あれ誰!? やばい、めちゃくちゃ格好よくないっ!?」
「誰待ってるんだろっ!」
非常にマズい気がする。
男性社員までもが増えてきて、ちょっとした騒ぎになりそうな予感。
凄く行きづらい。
でも、じっとしている訳にはいかない。
どうしよう。
モタモタしている間に、私に影が差す。
「迪香? どうしたの?」
恐る恐る声のする方を見ると、貴也さんが満面の笑顔を浮かべて立っていた。
「さぁ、行こうか」
手を握られ、引き摺られるかのように歩き出す。
怖くて周りが見れない。
全員じゃないけれど、同じ部署の人もいる訳で。
明日から仕事に行くのが怖い。
虐められたりするのだろうか。
なんて考えを巡らせていると、助手席の扉が開いた。
「どうぞ、奥様」
「あ、ありがとう、ございます……」
怖いくらいニコニコしている貴也さんに尻込みしながらも、大人しく車に乗り込む。
走り出した車。けど、少し違うのは、先程までの姿が嘘だったかのように、無表情で言葉を一言も発しない貴也さん。
様子がおかしい。
沈黙のまま車を走らせていると、見覚えのない公園のような場所に差し掛かり、車が止まる。
街灯の薄暗い明かりだけで、人気も少なく何台か車が止まっているだけだった。
「あの……」
「お昼、楽しかった?」
「え?」
シートベルトを外した貴也さんが、微笑を浮かべてこちらを向いている。
その微笑が、少し、怖い。
「ねぇ、君は彼を好きなの?」
「え? 貴也さ……」
「答えて。好き?」
笑っているのに、変な威圧感を感じて、言葉が出ない。
答えたいのに、息をするのがやっとだった。
何も言わずにいる私のシートベルトも外され、座席が倒される。
「た、貴也さっ……んんっ!」
乱暴で噛み付くようなキスに、息が出来ない。
口の中で舌が暴れ回り、絡め取られて、どちらともつかない唾液が、口の端から零れ落ちる。
「はぁ、ぅんンっ、ふ、んっ……」
「彼にもこんないやらしい顔、見せたの?」
物凄い誤解をされている。
「そんな事、してなっ……ぃあぁっ!」
首筋を噛まれる。
「あの時君が彼に、あんな幸せそうな顔で微笑んでるのを見て、俺は嫉妬で気が狂うかと思ったよ……」
微笑んだなんて、いつの事だろう。
貴也さんがあのオムライスを食べているのを想像して、ニヤけていた事はあっても、澤原君に苦笑した以外で、笑いかけた記憶はない。
何で嫉妬なんてするんだろう。
偽物の関係なのに。
考えている間にも、どんどん行為は進んでいて、貴也さんが私のズボンのボタンを外し、チャックを下ろして下着に手を入れたところで我に返り、抵抗を激しくする。
「やだっ! 貴也さんっ、やめてっ!」
「俺に触られるのが嫌? 彼の方がよくなったの?」
何を言っているのか。
とにかく、落ち着かないと話にならない。
暴れる私の両手を、素早く外したネクタイで頭の上で拘束する。
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