第二章

第10話

仕事が休みになり、わざわざ私の休みに合わせてくれて、貴也さんと街にショッピングに来ています。



でも、落ち着かなくて、キョロキョロしてしまう。



だって、こんな明らかに高そうな店、入った事すらない。



キラキラしすぎていて、目がチカチカする。



大人っぽくてエレガントなドレスや、キュートなドレス、子供用まである。



「そうですね。奥様は小顔で落ち着いた雰囲気をされていて、何よりスタイルがよくて、ドレス映えしそうですし、こちらなんてどうでしょう」



体の形がしっかり分かる、ピッタリしたワインレッドのドレスを見せられる。



「うーん、素敵だね。ちょっと着てみて」



「で、でもっ……」



「何でも着てみないとね。見るだけなのと着てみるのとは違うから」



押し切られ、担当の女性と共に、私の知る試着室とは比べ物にならないくらい、無駄に広い場所に入る。



中には他にもドレスがズラリと並んでいる。



「ご主人様には、ご贔屓にして頂いているんですよ。でも、結婚されたなんて初耳です。結婚式には、うちの商品を是非にと思っていたのに、残念です」



「す、すみません」



「いえいえ、そんなすみません、奥様が謝る事ではっ! でも、お店に女性を連れて来られたのは初めてで、まさかそれが奥様だったとは。何より、藤宮様の奥様に会えるなんて、感激です」



ニコリと笑った女性スタッフに、私はぎこちない笑顔を向けるしか出来なかった。



こんなんで、パーティーなんて上手く乗り越えられるんだろうか。



ドレスを着終わり、試着室のカーテンが開かれる。



「……っ……」



思っていた以上に体のラインが出ていて、恥ずかしくて体を気持ち小さくしてしまう。



「な、何で無言なんですか……何か、言って下さいっ……」



ただただ見つめられ、顔から火が出る。



「ドレス姿が似合っていて、奥様があまりにお綺麗だから、ご主人は見惚れてらっしゃるんですよ」



茶化すように言ったスタッフさんに、我に返った貴也さんがこちらへ歩み寄る。



「凄く、素敵だね……。ただ、君の綺麗な体が他の男達に見られると思うと、夫としては納得いかないな……。似合ってるし、少し残念な気もするけど、他のにしようか」



そう言うと、貴也さんは同じような色合いの、もう少し体のラインがマシなドレスを手に取った。



試着をし、貴也さんの許可が出たので、貴也さんが会計に向かうのを、促されたソファーに座って待つ。



「すまない、待たせてしまったね。結婚式をしていないなら、ドレスと衣装は是非と勧められてしまったよ」



苦笑して、困ったように貴也さんが言った。



店を出て、車に荷物を置いた後に街を歩く事になった。



「何か見たいものとか、ある?」



そんな質問をされる事が今までなかったから、答えに戸惑ってしまう。



人に何かを頼んだり、自分の気持ち、わがままを言うのはどうも苦手だ。



一度人に頼ってしまったら、一人で立てなくなってしまうから。



「遠慮しなくていいよ。君がしたい事を話してごらん」



私が言い淀んでいるのに気づいたのか、貴也さんは私の背に手を当て、優しい笑顔を浮かべた。



この人は本当にどこまでも優しくて、どこまでも大人だ。



スパダリとは、こういう人の事を言うんだろうか。



完璧過ぎて、益々私にはもったいないし、この人の隣にいる事は、私には荷が重い。



「あの、雑貨が……見たいです」



子供の頃ですら諦めていた、初めてのわがままだ。



「うん、じゃ、丁度いい所がある。おすすめのお店を紹介するよ」



ニコリと笑って手を出してくる貴也さんを見つめて、首を傾げる。



「お手をどうぞ、奥様」



「あ、えと、はい……」



差し出された手を握ると、自然な流れで指を絡められた。



恋人繋ぎだ。



それに驚いて手を凝視していると、今度は貴也さんが首を傾げる。



「何? もしかして、嫌、だったかい?」



「あ、いや、あの、こういうのは、初めてだったので、ちょっと驚いてしまって」



「こういうのって、手を繋ぐのが?」



「いえ、恋人繋ぎ? ってやつ、です。唯一付き合った元彼とは、結構すぐに別れたし、デートなんてした事もなかったので」



驚きに目を開いた貴也さんが、何故か嬉しそうに目を細めて微笑む。



「そっか」



「あの、何で嬉しそうなんですか?」



「あ、顔に出てた? 君にとってはいい事ではないよね、すまない。でもね……」



また優しい顔になって、見下ろされる。



「君の初めてが、どんどん俺で埋まっていくのが、嬉しくてね。君のような真っ白な女性を自分色に染めていく事は、男としてはなかなか魅力的だ。俺は結構貪欲なんだよ?」



ウインクして見せる彼は、無邪気な少年のようで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る