第44話 エピローグだモ

 騎士たちの花道をリアナに導かれ馬車の前へ至る。カエデには少し離れたところで待っててもらうことにした。さすがにこの中を一緒に進んでもらうには気が引けてさ。マーモ? マーモは俺の前をてくてくしているよ。彼にとっては人の社会なんて関係ないもの。

 リアナの後ろ姿からは「申し訳ない」という意思が見て取れる。ソロ探索者の俺が権力的なものを嫌うと考えているからだろう。事実その通りなのだけどね。

 王侯貴族の方々を尊敬する気持ちはある。だけど、お近づきになりたいか、と問われるとそうではない。

 関わって得することや、酒場で自慢したりすることができるかもしれないけど、厄介事の方が多いから。

 ザ・ワンでもソロ、そして、郊外に土地を買って静かにスローライフだ、と考えている俺がわざわざ王侯貴族と親交を持とうなどとするわけがないってね。

 リアナたちにも俺が静かに暮らしたいことを言ったことがあると思うので、彼女も察しているというわけさ。

 いかな彼女とて第一王女自らの依頼となれば断ることができない。そう言うのが面倒でソロ探索者をやっているんだよね。

 さて、馬車の前でリアナが横に動き、会釈をする。

 ええと、ここは片膝をついて馬車の扉が開くのを待てばいいのかな?

 

 スッと扉が開き、リアナを年長にしたような女性が立っており首だけを下げ、馬車から降りてきた!

 それだけじゃなく、片膝をつく俺の前で深々と礼をしたではないか。


「はじめまして、ロアーナと申します。わたくしのわがままに申し訳ありません。ですが、どうしても恩人であるクラウディオ様にお会いしたかったのです」

「クラウディオです。お体の方は大事ございませんか?」

「はい、クラウディオ様のもたらしてくださった『解呪の書』があり、すっかり元通りです」


 そう言ってはにかむ彼女はリアナと異なり淡雪のような儚い印象を受ける。

 病み上がりでまだまだ本調子じゃないんだろうなあ。

 それはそうとリアナたちはロアーナへどんな伝え方をしたんだ? 何やら全部俺がやりました的に伝わってない?

 

「不躾ですが、一点訂正させてください。『解呪の書』は私だけの力で取得したものではありません。リアナ様とお仲間たちの活躍あってのこと」

「リアナからクラウディオ様ならそうおっしゃると聞いております。お聞きした通りのお方でした」

「あ、え」


 困惑し言葉を詰まらせる俺に彼女が続ける。

 

「クラウディオ様にお会いしたくて、ご迷惑をおかけしてしまいました。クラウディオ様はお忙しい身、手短に、リアナ」

「はい、お姉さま」


 しずしずと俺の前まで進んだリアナが俺に立ち上がるように目で合図し、巻物を掲げた。

 誰も彼もが片膝をつくんじゃあないんだな。勉強になるわ。

 巻物を受け取り、すぐさま開封して、と察することができたので失礼して封を切る。

 えー、どれどれ。

『騎士爵へ叙勲に加え、以下の中から褒章を選択できるものとする

 ・王女親衛隊への加入も認める

 ・王都へ土地・屋敷を提供。

 ・リアナとの婚姻。

 ・報奨金1000万ゴルダ』


「うは……リアナ?」


 リアナの名前があったので思わず彼女を見やる。すると彼女は頬を赤らめ「ぜひ」と小さな声で囁いた。

 いくらなんでも褒美に娘を取らす的なのは勘弁願いたい。

 どれか選べと言われてもどれも要らないよなあ、これ。お金は困らないけど、額が額だけに俺が大金をせしめたと噂になることが明白だろ。

 そうなったら、変な輩を呼び込みかねない。お金を稼ぐのはザ・ワンでこっそりがいいんだよ。

 

「褒章についてなのですが……」


 どうすべきか迷っていたらふとキュウリを齧っているマーモに目が行く。

 

 ◇◇◇

 

「いやあ、何とか乗り切ったよ」

「リアナ姫と、は選ばなかったのでござるか」

「ないない、俺には王侯貴族の結婚のことは分からないけど、好きでもない相手と結婚は嫌だろ、普通」

「クラウディオ殿は本当に女心が分からぬでござるな」

「それに、王侯貴族の暮らしなんて合わなさ過ぎて無理だよ。俺にはザ・ワンが合っている」

 

 帰り道でカエデにロアーナたちとのやり取りを伝えた結果、褒章の話になった。

 褒章もちゃんともらうし、俺の生活もこれまでと変わらない。

 

『トマトもうまいモ』


 前を歩くマーモはボロロッカの宿を出た時からずっと食べ続けている。

 ちょっとは自粛しろよな、ほんと。

 それで褒章はどうしたのかって? それはだな。


「これから一年間、野菜と果物が届くからって少しは我慢しろよな」

『抑えているモ』


 そう、褒章は野菜と果物一年分にしてもらったのだ。

 とっさに浮かんだのがそれしかなかった。決してマーモのためにお願いしたわけではない。そこんとこ勘違いしないように。

 何とかして用意された褒章を回避しようと必死でさ。仕方なかったんだ。

 

 まだ話には続きがある。

 その日の晩のこと、ボロロッカの食事処でうまい食事と酒を飲み、長期宿泊している部屋に戻ったんだ。

 

「な、何してんだ……?」

「待ってた、リアナじゃないなら、私にもチャンス?」

「いやいや、どこがどうなってそうなるんだよ!」

「マーモも、私がいい」

『餌をよこすモ』

 

 こら、マーモ、リンゴに惹かれてベッドに登るんじゃねえ。そして当たり前のようにリンゴを齧るなってば。

 俺の部屋に入ったら、ベッドの上にカティナがいたんだ。それも全裸で。

 シーツで自分の体を隠しているものの、マーモがベッドに登ったらシーツが落ち、代わりにマーモが彼女の膝の上に乗った。

 いけないところはマーモによって見えてないが、目のやり場に困るから服を着てくれないものだろうか。


「意味が分からないのだが、どうしてここに?」

「罠外しは得意」

「忍び込むのが余裕なのは分かった。だけど、チャンスとか意味わからんぞ」

「クラウディオはそれなりにカッコいい。マーモは超超超可愛い。つまり、私も一緒」

「意味が分かんねえ! マーモに触りたかったらいつでも触っていいから、な」


 マーモを連れてご退場願おう。明日にお戻し頂ければ問題ない。

 ようやく説得がうまくいき、カティナが部屋扉まで来た時にアクシデント発生。

 

「クラウディオ殿、お忘れものが」

「こ、これは違う、違うんだ!」


 ゴゴゴゴと黒いオーラが発動したカエデとシーツだけの姿のカティナ。そして、いつもの調子でカリカリと何かを食べているマーモ。

 この事態を収拾するのにかるく小一時間ほどかかったよ。

 こうして一連の騒動は終わり、日常が戻って来ることになった。

 さあ、家が出来上がるまで今日も一日ザ・ワンに潜ることにしようか。

 

 おしまい

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固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~ うみ @Umi12345

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