第23話 カエデとヌタ

 おっと考察より先に二人の様子を見なきゃ。

 と、向こうもちょうど終わったところだったみたいだ。大怪我をした様子もないし、彼女らもすぐに探索を再開することだろう。

 用は済んだし、別の道から階下を目指すとするか。そのまま進むと彼女らの後ろをつけるようになっちゃうからさ。変に警戒されるのは本意じゃあないのだ。

 ところがどっこい、声もかけずに踵を返したところで呼び止められたじゃあないか。


「助力、感謝ぽん」

「お互い様だよ、こちらこそありがとう」


 ぽん……ってなんだよ、と激しく気になるが、一期一会の相手に突っ込むのも気が引ける。

 二人組のうち俺に声をかけてきたのはピンク色の髪の方だった。遠目に小柄だなと思っていたが、予想以上に低い。身長は俺の腰より少し上くらいで、10歳から12歳くらいに見える。人間以外の種族の見た目は実際の年齢とかけ離れていることも多く、歳の頃は不明としとく。

 服装も風変りだ。白いローブ? いや羽織りかな? 前があいた羽織りの左右を重ねるようにして赤い帯で縛っている。羽織りの下には赤いシャツを着ているようで、羽織りの袖から赤い色が見えていた。下は羽織りのみでスカート代わりなのかな?

 ふさふさのタヌキ耳と尻尾がふんふんと揺れていて、尻尾を振る犬のように可愛い。


「ヌタ、探索者殿が困っておられる。某、カエデと申す。探索者殿、ご助力感謝でござる」

「こ、こちらこそ、俺はクラウディオ、よろしく」


 もう一人の黒髪は長い髪を左右でお団子というこれもまた風変りな髪型だった。体にピタリと張り付いたテカリのある花柄のワンピースは太もものところにスリットが入っている。左肩から左胸を覆う革鎧は心臓を護るためなのだろうか。せっかくなら上半身全部覆った方がいいと思うのだが、布の服とローブの俺がどうこう言うところじゃないな。

 

『なにもあげないモ』

「この子もヌタと同じぽん」


 いつのまにやらマーモの前でしゃがみ込んでいたタヌキ耳のヌタがつんつんとマーモの額をつっついていた。

 噛みつきはしないだろ、たぶん。カティナにもなでなでされたり抱っこされたりしていたが、大人しかったものな。

 あいつの興味は食べ物だけなんじゃないだろうか。近寄ってきた者全てがマーモの食べ物を狙っているわけじゃあないんだが、箱の中の食べ物のことしか考えてないだろ絶対。彼とカティナとのやり取りを見ている限り、大人しいんじゃなくぼーっとして心ここにあらずな感じだった……と思う。

 マーモのことはどうでもいいとして、ヌタの発言は聞き逃せない言葉だったぞ。


「同じって?」

「主殿は門を開いたのでござろう?」

 

 俺の問いにはカエデが応えてくれた。

 門ってあの古代文字のあるところだよな。特に「開け」とかはやってないのだけど、マーモが出てきたのは確かだ。

 現在104階であることから、彼女もマーモをゲットする条件である100階以上は満たしている。

 

「ヌタもパートナーってこと?」

「然りでござる」

「えええ、俺と随分違うじゃないか、戦ってくれるみたいだし」

「100種の中から最もふさわしいパートナーが選ばれるぽん」


 ヌタがカエデの前に割り込みぴょんと飛び跳ね割ってはいってきた。

 「最もふさわしい」だとお。あの可愛くない食いしん坊はランダムとか言ってたぞ。

 どういうことだとばかりに奴を見るもぬぼーとしたままピクリとも反応しねえ。


「100種もいる中でアレが選ばれるとは思えんのだけど……」


 はあとため息交じりに返したらカエデがこれでもかと首を左右に振る。


「そのようなことはございませぬぞ。ヌタは某の不足を補ってくれるでござる。101階より途端に魔物が強化されましたが、80階辺りを進むより楽になったほどでござるよ」

「カエデが当たりを引いただけじゃ」

「そんなことないぽん!」


 またしても飛び跳ねて割って入ってくるヌタであった。今度はふさふさ尻尾ぶんぶん付きである。

 なにやらカエデとヌタが交互に解説してくれるも全然頭に入ってこねえ。

 カエデは抜忍刀流とかいう双剣の使い手で固有スキルも抜忍刀流と相性がいいもののだという。

 詳しくは分からないけど、彼女が剣士や戦士に属するものだとすれば弱点が明らかだ。

 遠距離から魔法や飛び道具でチクチクやってくる敵? いやいや、そこは気合いで寄ればいい。近接系は圧倒的なスピードかタフさを持っているものだから。

 俺には彼らが抱える弱点はない。

 剣士や戦士が最も苦手とするのは状態異常である。ステータスや精神力で耐えきれる場合もあるのだけど、麻痺や睡眠は喰らうと一発アウトなんだよね。

 石化や毒はこちらが動けなくなる前に敵を倒しきれば何とかなる。

 もう想像がついてきただろう。ヌタのパートナーとしての力は状態異常の治療である。

 それもヘクトールのような近接戦闘もこなすことができる術師なんだ。近接並の戦闘力を持つのだけど、治療の力は状態異常に特化しており怪我を治療することができないのだって。


「確かに、ベストなパートナーだな」

「ヌタに頼り切りでござるよ」

「そんなことないぽん。ヌタは怪我するとタヌキになるぽん」


 一定のダメージを受けるとヌタは少女の姿からタヌキの姿になりダメ―ジが回復するまで少女の姿に戻ることができないらしい。

 タヌキ姿のヌタはマーモと同じでモンスターの攻撃がすり抜ける。同様にヌタの攻撃も通らなくなるとのこと。

 マーモはモンスターへ攻撃をしようとなんてしないから、攻撃が通らないなんて知らなかったよ。通ったら通ったで攻撃を喰らうこともあるんじゃないかと不安になるが……。


「二人が素晴らしいパートナーってのは分かったよ」


 俺の場合、戦闘を手助けしてくれるパートナーは必要ない。一方で戦闘以外のことに関して何もできないんだよね。

 宝箱を開けたり、ダンジョンのマップを知ったり、モンスターやアイテムを鑑定したり、数え上げればキリがない。

 手ぶらで大きなストレージを持つことができるマーモの能力も得難い物であることは分かっている。だけど、ベストか? と言われるとうーん……。

 俺は深く考えるのをやめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る