第24話 ぽん
「色々教えてくれてありがとう」
予想に反し彼女らに警戒されていなくて少しビックリしたが、長々と立ち話をして進攻の邪魔をするのもなんだし、それじゃあ、と踵を返す。
しかし、クラウディオはタヌキに回り込まれてしまった。
「(外に)帰還するのかぽん? まだ日は高いぽん?」
「あ、いや、まだ来たばかりだし」
『モは食べられるなら何でもいいモ』
ぶれないマーモのことは置いておいて、ヌタはちゃんと俺の来た方向を見ていたんだな。
下へ向かう階段があるのは彼女らが進もうとしていた先になる。前回ここに来たときに地図を作っているから確実な情報だ。
モンスターの復習を兼ねて地図が正しいかも確認しつつ進んでいたんだよね。今のところ、描き間違いはない。
「クラウディオ殿、某たちと共に進むのはいかがでござるか?」
「(君たちの)邪魔になるよ」
「魔物どもと一戦交えてみましょうぞ。某たちが足手まといかを判断してからでどうでござる?」
「いや、俺が」
「そのようなことは決してございませぬ。クラウディオ殿はあの愛らしいパートナーは戦いに参加せぬのでござろう」
「ま、まあ、そうね。あいつは喰ってるだけだ」
『はやく寄越すモ』
喰うという単語に即反応するマーモはやはりブレない。
じゃあなくてだな。
俺に愛らしいパートナーなんぞいない。
……それは置いておくとして。
彼女らは二人組で、俺はソロで戦うことに慣れている。先ほど彼女らの戦う様子を見た感じだと104階なら危なげなく進むことができると思った。
うん、めっちゃ上から目線ですまん。上からのつもりではなかったんだよ。彼女らの接近戦は折り紙付きで穴がない。怖い状態異常もヌタがフォローできる。
正直言って俺の接近戦の実力は彼女らに遠く及ばない。及ばぬながらも200階に迫るところまで進めたのは接近戦以外の戦い方を活かしてきたからだ。
それにしても、俺の戦いをチラリと見ただけなのに随分と俺の評価が高い。理由は俺がソロで彼女らが二人だから。
個人的には同意できないけど、人によって考え方が違うのは当たり前で否定するのも野暮ってもんだ。
「クラウディオ殿、そうと決まれば一旦地上へ向かうでござる」
「その必要はないぽん」
「ヌタ、探索者センターに戻りパーティを組まねばクラウディオ殿がやり辛いでござるよ」
「パーティならここで組めばいいぽん」
「ぽん」と言いつつ、マーモの頭をなでなでするヌタ。
どういう仕組みになっているのか分からないけど、探索者センターでパーティ登録をすると「巻き込み」をしなくなる。
巻き込みとは味方の範囲攻撃魔法の範囲に入り、モンスターと一緒にダメージを受けてしまうことだ。別名フレンドリファイアという。
全部が全部味方の範囲攻撃に巻き込まれなくなるわけではないらしいが、少なくとも直接的なダメージ受けるスキルや魔法は受け付けなくなる。
そして、パーティ登録ができるのはカエデの言葉通り、探索者センターでしか行うことができない。ヌタの固有スキルに「パーティ登録」も含まれているってこと? それならマーモは関係ないよな。はて?
『なにもあげないモ』
「ヌタのマスターとマーモのマスターでパーティを組むぽん」
『分かったモ』
マーモが億劫そうに右前脚を上にあげる。相変わらず可愛くないが、彼の動作に対しカエデが頬を桜色に染め「愛らしい」と呟いているではないか。
絶対におかしい。どこからどうみてもふてぶてしくむっすりしていて可愛らしくはないぞ。
そんなマーモの右前脚をヌタが握る。
<カエデとパーティを組みますか?>
脳内にメッセージが浮かんだ。これって探索者センターでパーティ登録をする時と同じではないか。
「パーティを組む」
「是非に、お願いするでござる」
俺とカエデの声が重なった。
「ヌタ、これでパーティを組んだことになるでござるか?」
「そうぽん。パートナーを持つマスター間はパートナー同士が手を繋ぐとどこでもパーティ登録ができるぽん」
まさか箱以外に便利機能があったとは。
カエデと顔を見合わせ「なるほどな」と頷き合う。
◇◇◇
「スキル『フレイムウィップ』」
手から炎の鞭が伸び三体の浮遊した目玉と大木のお化けのようなモンスターを絡めとる。
それぞれゲイザー、トレントという名称だ(マーモ調べ)。
いつもならこれほど四本同時に炎の鞭を出すなんとことはでデメリットしかなくまず実行しない。
同時に出すと制御が格段に難しくなるし、鞭を巻きつけてもしっかりと引っ張ることができず拘束することもできない上に疲労度が四倍になる。
一本だけなら狙ったところに正確に着弾し、鞭を軸にして自分の体を宙に浮かせて奇襲することだってできるのだ。
デメリットばかりなのは俺がソロのときでパーティとなるとデメリットがメリットにもなるから驚きだよ。
「ゲイザーを」
「分かったぽん」
と声を掛け合いながらも既に二人は高く飛び上がり、鞭に気を取られた隙を活かしゲイザーを仕留める。
残ったトレントはカエデが左右に持つ小刀で枝を次々に切り落とし、丸裸になったところをヌタが両手持ちのでっかいハンマーでトレントの幹をぶっ叩く。
間もなくトレントも光の粒となって消えた。
「一瞬だったな。さすがだよ」
「クラウディオ殿が魔物全体へ炎の鞭を絡みつかせた故でござる」
「ぽん」
彼女らと俺の遠距離攻撃は相性抜群で、あまりにモンスターをサクサク倒すことができるからついついそのまま進んでしまってね。
なんともう109階まで来ている。
彼女らは何とも思っていないのだけど、俺としては微妙なんだよな。
自分だけ安全な位置で遠距離攻撃をしているだけなのだもの。自分のスキル構成も遠距離寄りなんだよねえ。
近距離はファングしかないのだが、遠距離攻撃は鳴動、フレイムウィップ、アクアブレス、光あれと四種もある。ソロの時は遠距離で乱してから縮地なりフレイムウィップを引っ張るなりで懐に潜り込むことが多かった。ソロの場合でも遠距離攻撃は重要なんだ。
パーティ……いやカエデたちとだと遠距離攻撃は甘い入り方でもモンスター全体に影響が出るようにすると格段に効率が良くなった。
ま、まあ……110階で終わりにしてもう少しだけ楽をさせてもらうか。俺としても勉強になったよ。
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