第26話 謎のスキル
「スキル『フレイムウィップ』」
「任されたでござる!」
巨大な蛾のようなモンスターに炎の鞭が絡みつく。その隙を逃さず高く飛び上がったカエデが空中で一回転した勢いそのままに左右の小刀を振るう。
スパンスパンと蛾の翅が斬られ、ハラリと落ちる。
「ちょっと試しさせてくれ。スキル『ブレードランナー』そして『縮地』」
ランナーを得たことでスタミナ回復が早まる瞑想は要らなくなった。同じくもう一つ流水と入れ替えたスキルがあるのだが、次の機会にしよう。
彼女らの前で手の内を隠すとかいろいろ考えていたけど、二人が惜しまず自分の情報を語る様子を見るに俺だけ隠していても何だかなあという気持ちになり、パーティ戦で余裕があるのをいいことに色々試してみようとね。
翅を斬られた蛾であるが、地に落ちると背中から甲虫のような硬い角のようなものが生えてきてそいつがウネウネと動いている。
ブレードランナーを発動すると肩から手の甲にかけて青色の光の刃のようなものが浮かび上がってきた。同じような青い光の刃が膝から下にも出現する。
うーん、ファングより使い辛そうだな、これ。
縮地の加速で……ってうお、いつもの縮地より二倍は速い!
勢い止まらず何とか体を横に向け蛾にショルダータックルをする形で突っ込む。
スパアアン。
青い刃に触れた蛾があっさりと真っ二つになり、光の粒と化していった。
『箱を開けるモ』
「余韻もクソもねえな」
「お食事ぽん」
そうなのだ。110階で終わるつもりだったのだけど、時間が早すぎたこともあり更に進んでしまった。
なんと既に120階のボスに挑戦してたという……。120階は昆虫系で蛾のようなモンスターだった。マーモから名前を聞くのを忘れていたけど、知ったところで特にメリットがあるわけでもないので、まあいいっかって気持ちである。
あれ、以前120階を突破した時はドラゴンだったような。ボスモンスターの種類って変わるんだろうか?
よく分からんが倒せたからいいやもう。
「目にも止まらぬ速さでござったな」
「ちょっと今のは無しかなあ……」
「使いようでござらんか」
「スピードが増すのは慣れ次第だけど、ファングより更に射程が短くなるから他のものを試したい」
「いくつものスキルを入れ替えることができるんでござったか。何ともはや、驚きの固有スキルでござるよ」
「カエデの固有スキルも大概だと思うぞ」
彼女が俺の固有スキルのことを知っているのと同じく、彼女の固有スキルも俺の知るところだ。
120階に到着するまでにお互いに固有スキルのことを会話したからね。
先に自分の固有スキルのことを語ったのは彼女だ。
彼女の固有スキルは「加速装置」という、すさまじいものだった。「加速」と聞いて最初は走る速度があがるスキルなのかと考えたのだが、そんな生易しいものじゃあない。確かに走る速度をあげることはできる。だが、それが「加速装置」の本質じゃあないんだ。
「加速装置」とは知覚・思考・運動能力のどれかを加速させることができる。知覚や思考を加速させるってピンと来なかったのだけど、知覚を加速させると五感が倍以上に強化される。思考を加速させると、1秒が3秒に感じられるようになり回りがゆっくりに見えるのだそうだ。
運動能力を加速すれば速く、力強く動くことができるようになる。
スピードを生かす両手に小刀でありながら、大型の両手用の武器を振るった時くらいの威力を出すことができてしまう。
状況によって知覚・思考・運動能力のどれを加速させるのか選択できるので応用力もバッチリだ。魔法を使う者からしたら思考の加速は喉から手がでるほど欲しいだろうなあ。思考の加速は魔術書の勉強を三倍の速度で進めることができるし、脳内の術式構築も三倍速くなるからね。
『箱を開けるモ』
「クラウディオさんー、早くぽん」
いつの間にかマーモにヌタまで乗っかるようになっているじゃないか。
パートナーってみんなこうなのかねえ。
俺もそろそろお腹が空いてきたし、食事をとるとするかあ。
この場で食事ができ、荷物要らずなのは便利は便利なのだけど、ボス部屋からってエレベーターですぐ外に出ることができるんだよね。
とか突っ込むのは野暮ってもんだ。マーモの能力はザ・ワン以外でも、いや、外でこそ真価を発揮する。
数日の旅に出たとして食事に困らないし、狩や採集をしても彼の箱に突っ込めば荷物にならない。
ザ・ワンでも宝箱を開けることができるのなら、話は変わってくるのだけど残念ながら俺もカエデも罠外しは専門外なのだ。
箱を開けて食事をとりつつ現在のスキルをチェックする。
『固有スキル:吸収
スキル:毒・麻痺・睡眠・恐慌・石化耐性
スキル:ランナー
スキル:ファング
スキル:縮地
スキル:フレイムウィップ
スキル:アクアブレス
スキル:鳴動
スキル:光あれ
スキル:自己修復(中)
スキル:ブレードランナー
スキル:これでも喰らえ』
「何かやっているのでござるか?」
「手持ちスキルのチェックをしていたんだ」
他の人から見ると何も無いところを見つめているように見えてしまうようで、ちょっとばかり恥ずかしい。
カエデから声をかけられて初めて意識するとは我ながら抜けているよなあ。固有スキルが入れ替わってから警戒心が足らなさすぎるぞ。
強い力を持ったからといって慢心していてはどこかで致命的なミスをしてしまうことになる。
『もう一本食べるモ』
「ヌタも食べるぽん」
パートナー同士仲良くやっているようで何より。単に食い意地が張っているだけともいう。
ヌタのタヌキ姿を見たことがないけど、彼女の本質はそっちなんだろうなあ。
「して、スキルはいかがでござったか?」
「さっき使ったブレードランナーは入れ替えかなあ。もう一つ謎のスキルは使ってみないと分からない」
「見るのが楽しみでござる」
「もう少し上の階層で試した方がいいかもなあ」
取得して即使用はどんなスキルか分からないので初見の強いモンスターに使うには不向きだ。
今回は彼女らがいることと、俺にとっては二回目だったので取得即使用をしていた。
正直言って今持っているスキルについてもそのポテンシャルを十分に活かせているとは言えない。耐性と自己修復は別にしてそれぞれのスキルはもっと的確に使うことができるはずなんだ。かといって新しいスキルも魅力的なわけで……贅沢な悩みだけど難しいところだ。
「謎のスキルの名前は何と?」
「『これでも喰らえ』だとさ……」
「それはいかんとも……でござるな」
「だろ」
ワクワクしていたカエデの顔が曇る。名前からどんなスキルかまるで想像がつかないんだよな。
そんな感じで楽しいお食事タイムの時間が過ぎていった。
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