第13話 お灸をすえてきた

 あばよ、とばかりに背を向けて歩き出そうとしたら前方にモンスター出現。

 敵は一体だけ。モンスターの見た目は巨大なカマキリそっくりだった。カマキリの大きさは凡そ全長4メートルと昆虫ならば規格外過ぎるサイズである。

 こいつは形こそカマキリなのだが、カニやエビ型のモンスターじゃないかと思う。

 体色は明るいオレンジで、甲殻はゴツゴツしておりカニを彷彿とさせる。カマキリの刃に当たる部分は鋭いブレード状になっていて、人間の体でも軽々スパッと斬れそうだ。斬られるところを見たことがないから何とも言えないけどさ。

 ブルーノらはお強い探索者らしいのでカマキリくらい余裕じゃないの? 

 カマキリの間をすり抜けあいつらを置いて行くこともできなくはないが、無理にすり抜けようとしてあのブレードに斬られでもしたら元も子もない。

 倒してしまった方が俺にとっても安全か。俺に被害がこないようにするためだ。仕方ない。


「一体だけサービスしてやるよ」

「お前、85階だぞ!」

「おい、アレ……キラーマンティスだぞ……転移の書を使おうぜ。ブルーノ」

 

 後ろで何のかんの言い合いをしているが、カマキリは確かに危険であるものの単体で正面から行くなら戦い辛いほうではないのだよ。

 広範囲に炎を吐き出したり、雷を落としてくるモンスターの方が余程厄介だ。

 カマキリは動きが素早く、格闘戦をすると今の俺でも油断すると怪我をするほど。


「要は近寄らなきゃいいだけだ。スキル『アクアブレス』」


 手を開き両手を前に突き出す。

 ブシャアアアアア!

 手のひらから勢いよく滝のような水が吹き出し、カマキリを吹き飛ばす。

 カマキリは水の勢いになすすべもなく壁に激突してドシンと地面に落ちた。

 ひっくり返ったカマキリの腹へファングを突き刺すと、カマキリは光の粒となって消える。


「邪魔者もいなくなったし、じゃあな、ブルーノ」


 今度こそこの場から立ち去る俺なのであった。


 ◇◇◇


「ありがとう」

「またのお越しをお待ちしております」


 探索者センターで魔石をお金に換え外に出る。時刻はお昼過ぎくらい(腹時計による)ってところ。せっかくだし、ポロロッカじゃないところで食べようかな。

 ポロロッカをスルーして大通りをゆっくりと進む。

 大通りは大広場に繋がっており、ここから四方向に大通りが出ている作りになっていた。どちらの方向に進んでも終点は街の外へ出る門なので、来た道以外は郊外に行くことができる。

 どの道にしようかな? 今日のところは右に行ってみるとしようか。のんびりと街の景色を眺めながら進んでいると色んな店が目に映る。

『道具屋ピッコリ』

 へえ、こんなところに道具屋があるんだ。

 愛用している道具屋は大広場を左に進んだ先にある。その店で宝箱の罠解除用の道具や針と糸とか袋などを購入していた。もっとも月に1回行くか行かないかくらいのものだけどね。

 カランカラン。

 店の扉に取り付けられた鈴が乾いた音を立てる。

 店内は思っている道具屋と異なっていた。巻物やらサイコロのようなガラス細工が置いてあるではないか。道具屋は道具屋でも魔道具屋だったのかな? 

 色鮮やかな小瓶に入った液体とかは何に使うんだろ。ポーションとは色が違うし。見知らぬアイテムも多いが、中には見知ったアイテムもいくつかあった。薬草類や小瓶の一群に混じって並べられていたポーションなどだな。

 あ、この巻物って……。


「転移の書……」

「転移の書かい?」

「あ、いえ。え、えっと。ザ・ワンで階層が分かるアイテムってありますか?」

「そいつだよ」


 巻物が沢山あるなと見ていたら、たまたま目に留まったのが転移の書だった。

 つい因縁深い転移の書を口にしたら、真っ白な髭と髪の店主に声をかけられたというわけさ。

 初めての店、かつ相手が探索者じゃないので丁寧な口調でやり取りを行った。それはそうとして……階層が分かるアイテムがあるのか!

 パーティを組んでいたら自然と便利アイテム情報が入ってくるのだろうけど、俺はソロかつ積極的に情報を仕入れてこなかった。1階のみだからその必要もなかったものなあ。

 階層が分かるアイテムは探索者のコンパスと呼ばれるもので、四角錐のクリスタルといった見た目をしている。

 握りしめて念じると何階層にいるのか分かるのだと。1回使い切りでお値段は10ゴルダと高くはない。親指くらいの大きさだし、幾つか持っていても良さそうだ。

店主に他のアイテムについて尋ねるとぶっきらぼうながらも全部説明してくれた。色々聞いた結果、懐中時計、探索者のコンパス、あとは高いが帰還の書という巻物も購入する。


「毒や麻痺を癒すポーションは必要ないのかい?」

「いえ、必要ありません。ソロなので」


 毒と麻痺は耐性があるから、と口から出そうになったが不用意に情報を漏らすべきではないと曖昧に誤魔化す。

 対する店主は驚いたように声のトーンがあがる。


「ソロだったのかい。10階くらいまでの低階層ならたまにいるけど、お前さん深層探索者だろ。珍しい」

「見ただけで分かるんですか?」

「探索者のコンパスを買っただろ。転移トラップ用じゃないのかい?」

「そんなのもあるんだ……」

「お前さん、ソロだから宝箱に手を出せないのかい。だったら必要ないんじゃないか? 返金してもいいよ」

「いえ、買ったものだし持っときます」


 モンスターが罠解除のスキルを持ってるわけがないものなあ。

 宝箱の罠が解除できなくなる階層から宝箱には触れなくなった。30階まではこれまで培った経験で何とかなったのだけど、それ以降は急に罠を外せなくなってしまってさ。

 きっと31階以降に転移トラップなるものもあるのだろう。

 自分の考えが間違えていたことに気が付くのは随分と後になってからだとはこの時の俺はまだ知らない。

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