第8話 更に奥へ

『心配すんな。一番深くても30階層だって。ガハハハハ』

 ブルーノの下品な笑い声を思い出し、ギリリと歯ぎしりをする。

 あの後、リアナたちは息を切らせて戻ってきてくれた。頼んだ携帯できる食糧だけじゃなく、大きなリュックに寝る時に便利な毛布や傷薬まで添えて。

 彼らに感謝の言葉と共に手持ちのお金を渡そうとしたら、逆に「助けていただきありがとうございます! ちゃんとしたお礼は外に出られた時に」と握手を求められた。

 ずっとソロ探索者だったので、感謝されることに慣れていないから喜びより戸惑いが大きかったよ。だけど、悪い気はしない。

 いい気持ちでいた時に、じゃあどこまで潜ろうかと考えブルーのセリフを思い出し苦虫を嚙み潰したというわけだった。

 干し肉とパンをかじり気持ちを落ち着け、いざ21階へ歩を進める。

 宝箱を探しながら鼻歌交じりで21階を易々と突破。肩慣らしが終わり、22階へ。

 

 ◇◇◇

 

「これで食べ物は最後か……ん、これは」


 大きなリュックの底に小袋が入っていた。開けてみると金貨が入っていたじゃあないか。

 これ一枚で1000ゴルダの価値がある。以前の俺が5回ダンジョンにチャレンジして稼ぐくらいの金額だぜ……。

 1階専門といってもソロだから得た金は全て自分のものになる。何が言いたいかというと、街で警備の仕事をやるより、俺の方が稼ぎがよい。

 俺は月に20回くらいダンジョンに潜るので、一ヶ月に稼ぐ金額の四分の一が1000ゴルダになる計算だ。荷運びの仕事を一ヶ月やると2000ゴルダも稼げない。

 荷運びの仕事でも贅沢はできないけど、生活はしていける。

 そう考えると大きなリュックにパンパンに詰め込んだ荷物の代金に加え、1000ゴルダとは破格の報酬だと分かってもらえると思う。

 正直、俺としても19階から20階に行けばエレベーターが出るのか、は試してみたいところだったので、ついでに行くくらいの気持ちだった。

 う、うーん。外に出て彼らに会ったら1000ゴルダは彼らに渡そう。もらい過ぎは逆に信頼関係を崩しかねないというのが持論である。

 何事も持ちつ持たれつってのが心地よい。


「補給無しで更に10階潜るのはやめておいた方がよさそうだ」


 既にダンジョンで二夜を過ごしているので、疲労も蓄積してきている。よくモンスターが徘徊する中で眠ることができたな、と疑問を抱いて当然だ。

 実は安全に寝ることができる場所があったんだよ。

 それは、10階ごとにあるボス部屋になる。試しに数時間居座ってみたところ、新しくボスが出現することがなかった。

 誰かが入ってきたら出現するかもしれないけど、夜を徹して進軍するというのはまず考えられない。ダンジョンの中は昼と夜の区別がないから、暗い中を進むってことはないのだけど、わざわざ夜の時間に進むメリットがないものな。夜になる前に外に出るのが探索者の常だ。時間帯によって能力が上がる固有スキルでも所持していたら話は別だが……。

 ちょうど今いる階層の下がボス出現階なので、ボス討伐後に休息してから外へ出るとしよう。

 更に10階層となると、途中で逃げ回ることになり進めなくなってしまうと思った以上に時間を喰うことになる。そんな時、食べ物がないのでは万全の状態で逃げ回ることもできなくなるからな。


「そんじゃ、ラスト、気合い入れて行くぜ!」


 パンパンと自分の頬を叩き、いざ行かん。

 ゆっくりと階段を降りると、さっそくボスに出くわす。


「うおおお。めっちゃ怖いけど、感動だ」


 物語の中で幾度となく登場する有名過ぎるモンスターが立っていた。

 その有名過ぎるモンスターとはドラゴンである。ミスリルの鎧より尚硬い鱗が全身を覆い、体長は15メートルを優に超える巨体。大きな口に生えそろった鋭い牙、短い前脚にかぎ爪、そして長い尻尾とコウモリのような翼が生えている。まさに物語の中で描かれるドラゴンそのものだ。体色は光沢をもつこげ茶色というのだけがいただけない。

 そんな地味カラーじゃなくてオーソドックスな緑とか色鮮やかな赤とか青がよかったなあ。

 っと、ドラゴン見学に来たわけじゃない。奴がどんな能力を持っているのか分からないから、様子を見ながら戦わないと。

 ドラゴンといえば口から炎を吐き出すブレスが最も有名かつ強力な攻撃だ。

 巨大な口元に炎や煙があがったら注意しなきゃ。


「うお」


 ドラゴンの口元に注目していたら風を置き去りにするほどの速度で唸りをあげ、尻尾が飛んできた。

 横から薙ぎ払うような動きで迫りくる尻尾に対し、膝、肩を地面につけ伏せの姿勢で回避する。

 が、次の瞬間、叩きつけるように尻尾が!

 ゴロゴロと転がり、これも間一髪で躱すも、次弾の叩きつけ尻尾が迫る。

 速い! 並の探索者じゃ、この連打だけで一たまりもねえぞ。ここでたまらず高く飛び上がったら狙い撃ちされそうだな。

 ここはスキルで強引に突破するのがよさそうだ。

 スキルは激しく入れ替わっているからな……。

『固有スキル:吸収

 スキル:毒・麻痺・睡眠耐性

 スキル:麻痺

 スキル:ファング

 スキル:縮地

 スキル:フレイムウィップ

 スキル:アクアブレス

 スキル:鳴動

 スキル:光あれ

 スキル:自己修復(中)

 スキル:瞑想

 スキル:流水』

 自分の手持ちスキルを確認し、転がり尻尾を躱す。なかなか立たせてくれねえな。しかし、何度も回避しているうちに尻尾の射程距離が見えてきたぞ。

 スキルなのだが、スキルによって『疲労度』のようなものがあることが分かった。具体的には多用しても全く疲れないファングのようなスキルと連続で使用したら立てなくなるほど疲労し、朦朧としてくる鳴動のようなスキルもある。

 これは魔法でいうところの魔力消費のものだと考えると理解しやすかった。魔力の代わりに気力的なものを消費してスキルを発動するんじゃないかってね。

 数値化されているわけでもないので、何度か使うことでだいたいの消費量を把握しかない。それと……おっと、のんびり考えている場合じゃない。次の攻撃がくる。

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