第9話 帰還
よっし、まとまった。ドラゴンは尻尾を振り回しているだけで全然本気モードではない。暇すぎて欠伸をしていてもおかしくない状況である。
見てろ、その余裕を後悔させてやる。
速度を上げ一息に尻尾の射程距離外に出て反撃? いや、それじゃあ奴の度肝を抜くことはできねえだろ。
跳ねあがるように立ち上がり膝を落とし構える。
ここは――。
「スキル『フレイムウィップ』」
手のひらから炎の鞭が出現する。こいつは炎でできているが、普通の鞭のように扱うことができる使いやすいスキルだ。使い勝手としてはファングと似たようなものになる。
もっとも、格闘の経験で戦うことができるファングと異なり、鞭をメイン武器として使ってこなかった俺にとっては不慣れで剣のようにはいかない。せいぜい狙ったところに当てることできる程度である。
それで十分!
丁度、上から下に叩きつけるように尻尾が飛んでくる。
炎の鞭を振るいドラゴンの尻尾に巻き付けた。人間が炎の鞭に触れたらた大やけどをするが、ドラゴンの硬い鱗は炎の鞭などロープが絡みついた程度のようらしい。
ドラゴンは炎の鞭などまるで意に介さず尻尾の勢いは微塵たりとも衰えていなかった。
「だが、これでいい」
炎の鞭を引き、それを支点に高く飛び上がる。そこで俺の意思に合わせ炎の鞭が伸び、一息にドラゴンの懐に着地する。
対するドラゴンは炎の鞭を引っ張ってくるが、尻尾の動きより早く鞭を伸ばしたので俺が後ろに引っ張られることはなかった。
更に引こうと尻尾が動いたところでフレイムウィップのスキルを解除する。
これでバランスを崩してくれればと思ったが、尻尾が流れた程度で巨体は揺るがない。
少しでも揺らいでくれればラッキー程度に思っていたので、特に問題なしだ。
ようやく、奴に攻撃が届くところまで進めたぞ。
着地したのはドラゴンの直立する両後足の目と鼻の先。この位置なら尻尾もブレスも届かないぜ。
ドラゴンは後右脚を振り上げ、俺を踏みつぶそうとしてくる。尻尾に比べれば止まっているようだぞ。軽々と回避し、ドラゴンの両後足の間を維持する。
「スキル『ファング』」
お馴染みとなったスキル「ファング」。両拳の先に硬い爪が生える格闘用のスキルだ。
よいせっと。右の腕を振り抜き、ドラゴンの脛を斬りつける。
スパアアン。
一発でファングが折れてしまったらと懸念したが、抵抗なくドラゴンの鱗を切り裂くことができた。
安全地帯から何度も何度もドラゴンの足を攻撃すると、たまらずとった奴の行動は――。
ぶわっと風が吹き抜け浮きそうになる体を堪える。
一方のドラゴンは翼をはためかせ、宙に浮きあがっているではないか。
対する俺はフレイムウィップを再度発動し、ドラゴンの足に炎の鞭を絡みつかせ奴の膝の上に乗る。
ぜってえ離れねえ!
右手に炎の鞭。左手にはファングという状態で縦横無尽にドラゴンを爪で斬って、斬って、斬る。
そしてついにドラゴンの尻尾が落ち、両後脚もボロボロになった。
ドラゴンは何度も俺を振り落とそうとするも、炎の鞭が常にどこかしらに絡みついているので俺が宙に浮く事態になってもすぐにドラゴンの体の上に復帰し、攻撃を加える。
ドシイイイイン。
爪のダメージに耐え切れなくなったドラゴンが飛行できなくなり、地に落ちた。
そして、ドラゴンは光の粒となって消える。
『スタミナ+
力++
スキルをロックしているため、「金剛」は獲得できませんでした』
「おお、さすがボス。ステータスがあがった」
金剛とやらのスキルは惜しいが、仕方ない。どんなスキルが手に入るか分からないんだよなあ。30階に到達する頃には一度倒してどんなスキルを持っているか確認してから、取得するかどうかを決めていた。しかしだな、同じモンスターでも所持しているスキルが一つと限らないのが厄介なのだよね。
ん? スキルの取得数とかロックって何のことだって?
これも道中で気が付いたことなのだけど、スキルの習得数は10個までの制限がある。そして、新たなスキルを獲得するとランダムでどれかのスキルが消えてしまう。
これじゃあ、せっかく使い慣れたスキルが消失し、下手したら先に進むことにも支障がでる。
そこで有用なのがスキルのロックだ。心の中で念じるとスキルにロックをかけることができ、消えることがなくなる。ロックを解除するのも心の中で念じるだけでいい。今は全てのスキルにロックをかけているから、新たなスキルを獲得しようとしても全部ロックしているからスキルを獲得できなくなっていた。
「んじゃ、出るとするか」
外に出たらまず何をするかなあ。まずは腹いっぱい食べて、ふかふかのベッドで眠ることにするか。
出現したエレベーターへ続く道を開くボタンを見てやっぱりボスのいる階層の作りって全部同じなんだな、と思いつつボタンを押しにすたすたと歩き始める。
◇◇◇
エレベーターで地上まで移動し円形の広間に出た。この広間は結構広大でだいたい300メートルほどの円形の作りになっている。天井もドーム状でドームにはステンドグラスがはめ込まれており、外の光が差し込むような作りになっていた。
久しぶりの自然光に目を細めつつ、周囲を見渡す。
誰もいないな……。外はまだ明るいから誰かしら探索者がいると思ったのだけど、誰もいない。
となると、ちょうど日が登った頃なのかも。朝日と共に起き出す探索者がいないことはないのだけど、起きてから準備を整えザ・ワンに挑むから、朝日の時間に探索者がいることは稀の稀だ。
ってことは俺は明け方にドラゴンと戦っていたわけか。こうも容易く時間間隔がおかしくなるものだったのかと戦慄している。
今回稼いだ金で懐中電灯なるものを買った方がいいかも。いやいや、今後は何日も潜る必要はないから無用の長物となるだろ、きっと。
「しかし、ま、並ばなくて済むのはありがたい」
とっとと休みたい俺としては、換金を済ませ外に出たいのである。
広間の壁に沿うように三つの台座が換金の装置だ。今は誰も使っておらず、三台とも空状態になっている。
台座に右手の手の平をペタリと当てた。すると、台座の上に紫水晶とそっくりの魔石が……。
「って、多すぎるだろ!」
大小、サイズが様々な魔石があふれ出てきて台座からこぼれ落ちたではないか。
魔石はザ・ワンでモンスターを討伐すればするほど台座の上から現れる。一般的に下の階層のモンスターほど大きな魔石を落とすのだが、一階でウロウロしている俺は大きな魔石など見たこともなかったのだ。
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