第10話 お金持ちになった

 無理やりリュックに魔石を詰め込み、広間の外に出る。そういや魔石以外のものもあった気がするけど、後回しだ。後回し。

 とっとと換金して腹いっぱい食べる。まずはそれからだ。

 広間の外は俺の住む街『コッズタウン』になる。いや、ザ・ワンへ続く階段と換金の台座がある円形の建物も街の一部だったか。

 階段を降りると街の外という扱いだった記憶……多分、きっと。

 

 円形の建物を背にして大通りとなっていて、大通りに入る場所の左が探索者センターで右が宿兼食事処だ。この二つの建物だけで街での用事の多くが完結する……他には武器のメンテナンスとかもろもろあるにはあるけど。

 さてと、探索者センターへ推して参る。

 探索者センターを建築した誰かは何を考えてこんな建物にしたんだろうなあ。探索者センターは他と一線を画す。

 装飾など一切ない四角い箱型で屋根もない。探索者センター以外の建物は何かしらの色というか、生活感というか、そんなものがあるのだが、敢えてその色を全て廃したというか、うまく言えない……あ、無機質、そう無機質な感じなんだよ。

 無駄を排した味気ない建物。それが探索者センターである。

 探索者センターは名前からも分かるが、探索者とは切っても切れない施設なんだ。

 探索者センターの主な役割は『魔石と宝石の換金』『パーティ登録』『出発申請』の三つである。魔石と宝石の換金と出発申請は文字通りなので理解できると思う。

 パーティ登録はザ・ワンに入る前に誰と誰が一緒のパーティだと申告しておき、魔石を換金する際に公平に分配してくれる制度のことである。

 たしか、とある探索者がパーティ間でお金のことで揉めないようにとお金を握っている探索者センターに申し出たことで成立した制度だったかな。

 そんなこんなで探索者センターの中に入る。中も同じく無機質なんだよなあ。何度通っても慣れない。

 奥にカウンターがあり、等間隔で椅子が並ぶ。椅子の向かいに職員が座っている。装飾品は一切ない。

 既に数名の探索者が椅子に座り、出発の手続きを行っているようだ。右端の席が空いていたので、席に座り向かいのショートカットの職員の女の子へ挨拶する。

 

「おはようございます。出発ですか?」

「換金がしたい」

「畏まりました」

「これで」

 

 ドスンとリュックをカウンターに置き、開いて見せた。

 朝っぱらから換金をすることは珍しいことではないのか眉一つ動かさなかった彼女が、ポカンと口を開き固まる。


「こ、これをクラウディオさんが? い、いえ、決して疑うわけでは」

「疑われても当然だよ。だけど、盗んだとかじゃなく正真正銘俺が稼いだものだ」


 彼女だけでなく、探索者センターの職員はお互いに顔を知っている関係だ。何年もここへ通っているから自然とそうなる。

 俺は魔石を得ることはめったになかったが、宝箱から宝石を毎日のようにゲットしていたから、換金のために探索者センターに通っていたのだよね。

 数年ずっとこれだったのだ。突然大量の魔石を持ってきたら驚くのも無理はない。正真正銘、自分で稼いだものなのだけど信じてもらうのが難しいかもしれん。

 しまったなあ。職員を台座まで呼んで、彼らの目の前で魔石を出せばよかった。

 

「少々お待ちを」


 どうしたものかと考えている俺に対し、彼女がそう言い残し奥へ引っ込む。

 間もなく彼女は年配のやたらとゴツイスキンヘッドの男と共に戻ってきた。

 お、この男は確か、センター長だったか。

 元探索者で現役時代に50階かそこらまで潜ったとか聞いたな。


「クラウディオ、すまんがちいと中を改めさせてもらっていいか?」

「それで何か証明できるなら、俺からもお願いしたい」

「こいつは……お前さん、随分深いところまで潜ったんだな」

「ボス部屋で寝て、起きて、探索を再開して、で結構潜ったと思う」

「おいおい、称号の書まで一緒に突っ込んでるじゃねえか」

「そういや魔石以外のものも入ってたな」


 後から確認しようと思ってた魔石以外に出てきたやつだな、その巻物。他にも宝箱から得た宝石類もいくつか入っている。

 宝箱は30階までは集めていたのだけど、31階の宝箱で罠が外せなくなって、それ以降は開けていない。モンスターが罠解除のスキルとか持ってたらいいのだけど、残念ながら罠関連のスキルは取得できなかったので、泣く泣く諦めたんだよな。

 他にも鑑定とか位置情報が分かるスキルとかも欲しいのだけど、モンスターが持ってるスキルとは思えねえ。


「称号の書を開いてもいいか?」

「うん」

「疑ってすまなかったな、マリアン、こいつを全部換金してやってくれ」

「畏まりました」

 

 ほお、称号の書ってので俺が魔石をゲットしたことが分かるのか。

 スキンヘッドのセンター長がチェックした巻物は人差し指くらいの長さの小さなものだ。

 魔石を職員の女の子マリアンがガサッと持って行ってくれたので、同じような巻物が何個もあることが分かった。

 小さいものだからこんなに数があったとは気が付かなかったぞ。

 試しに一つ開けてみたら、なるほどと膝を打つ。

『フロアボス討伐 30階 クラウディオ・シルバ』

 俺の名前が書いた巻物が出てくるとなれば、俺が集めた魔石だと分かるわけか。ボスを倒すたびに出てくるものっぽいなこれ。


「お前さん、20階までソロで行ったのか」

「一応、まあ」

「すまん、詮索をするつもりじゃなかったんだ。お前さんと同姓同名はいねえから聞くまでもなかったな」

「1階専門の俺が突然20階だと何か問いかけたくなる気持ちは分かるよ」


 センター長の見た称号の書は20階のものだったようだ。20階はリアナたちと一緒だったなあ。彼女らには改めてお礼を言わなきゃ。

 ただし、いくら早くともご飯を食べた後だ。 


「もうすぐマリアンが戻ってくる。ちいとだけ待ってくれ」

「後ろもつかえてないから、急がなくてもいいよ」

「余計なお世話かもしれねえが、スタータス鑑定やアイテム鑑定をしたいなら言ってくれよ」

「そういやセンターでステータス鑑定もやってたんだった」

「おうよ。それぞれのスタイルがあるからな。見て成長を実感する奴やどこを伸ばすか考える奴。数値に引っ張られて害になると見ねえ奴、色々だ」

「気が向いたら頼みにくるよ、ありがとう」


 そうだった、そうだった。『魔石と宝石の換金』『パーティ登録』『出発申請』以外に『各種鑑定』って役割も担っていたんだったよ。

 ステータス鑑定は自分のステータスだけを知っていても片手落ちだと考えている。モンスターとのステータス差を見て始めて有意なものになるんじゃなかってね。

 俺の力の値が100だろうが1000だろうが、相手のモンスターと力比べをして勝てるかどうかは組み合ってみるまで分からないだろ。

 アイテム鑑定は調べたいものがあれば調べてもらうのもいいかもしれない。

 

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