第11話 再会

「ふうう、食った食った」


 換金した|ゴルダ≪お金≫を握りしめてさっそく向かいにある宿屋兼食事処『ポロロッカ』に足を運んだ。

 ボロロッカは探索センターと建物の様相からして異なる。探索センターは無機質・静とすれば、ボロロッカは年季の入った・動かな。

 家の素材は木造で、壁を塗り固めた漆喰も長年の雨風によって黒ずんでいる。屋根は遠目でもボロロッカだと分かるほどの目立つ赤色で三階建てだ。

 二階部分と三階部分の壁はレンガで装飾されている。

 入口は引き戸なのだけど、今は開け放たれていた。空気の入れ替え? だったか、開け放たれている時間があるんだよね。

 そうするとだな、外まで良い匂いが漂ってきて、腹が鳴る。すると、もうボロロッカで食べるしかねえ、となるだろ。空気の入れ替えってのは名目で、本当の目的は匂いで客を惹きつけるためなんじゃないかと。

 街には他にも食事処はある。俺の食事はほぼポロロッカだったのだけど、たまに別に食事処に行ったりしていた。

 ポロロッカはメニューが豊富で量が多く、安い。探索者は体力勝負なので、こういった量が多く安い食事処が好まれる……はず。人に寄るのだろうけどね。

 そしてなにより、ザ・ワンと探索者センターの目の前だからね。

 本日は鳥の丸焼きと丸パン、豆のスープにエールを数杯飲んだ。久々にちゃんと調理された料理を食べて大満足、大満足である。

 たらふく食った俺は食事エリアの左手にある宿の受付に向かう。

 この時間だとまだ前日の宿泊客が残っている時間だから部屋が空いてないかも。


「一人なのだけど、今から泊まれるかな?」

「今からだと二泊分になるけどいいかな?」

「うん、明日の朝まで頼みたい」

「あいよ」

 

 筋骨隆々の中年の男がちょこんと部屋の鍵をトレイに置く。

 彼の容貌から本当に宿の店主なのかといつも疑問を抱くのだが、特に食事処で客同士の喧嘩とかがあった時に腕っぷしが必要になるのかも。

 食事処の店主は気の良い恰幅のよい中年なのだけどね。

 宿代に100ゴルダを置き、鍵を取る。


「クラウディオじゃないか!」

「ん? お、ギリアン」


 なんという奇遇。俺に挨拶してきたのは長髪軽装の戦士ギリアンだった。

 と、彼に続き髭の聖魔法まで操る戦士ヘクトール。少し遅れて女の子二人も顔を見せた。

 たった数日前のことなのに彼ら四人と一緒にヒュドラを倒したのが随分昔のことのように思える。

 

「クラウディオさん、よくぞご無事で」


 感極まった様子のリアナと握手を交わし、笑顔で言葉を返す。

 

「本当に助かったよ。食事をはじめ期待した以上のものを用意してくれてありがとう。それからこれ」

「少ないですが、クラウディオさんへのお礼です。お持ちください」

「いやいや、お金以外にもらったもので十分以上だよ。それに、|ゴルダ≪お金≫は稼いできたからさ」

「あなたの責務を果たし、帰還された、ということですね」

「責務ってほどじゃないけど、目的は果たせたよ」


 ギリアンが口を挟み、それにヘクトールも続く。

 

「あんたほどの強え奴の目標ってのは気になるが、おめでとう」

「おお、クラウディオに神の導きあらんことを」


 残る最後の一人である長耳の少女はもじもじした様子で、そっぽを向きぼそりと祝福してくれた。


「おめでと」

「みんな、ありがとう。みんなに会えなかったらと思うとゾッとするよ」


 彼らに会わずのそのまま進んでいたとしたら、19階からそのまま1階まで登るか、20階に引き返しエレベーターで帰還になっていたことだろう。

 それじゃあ、|奴≪ブルーノ≫に対抗できない。

 探索者をやっていくなら、ザ・ワンの中はともかく宿でも探索者センターでも鉢合わせになるからな。

 お互いいる場所が分かっているんだ。いつ寝首をかきにくるか分かったもんじゃない。

 とここまで考えて外の可能性は毒を盛られるくらいしかないか、と気づく。一番可能性が高いのは俺の後をつけてザ・ワンに入り「中での秘め事」として処理する、だろう。

 ははは。楽しみになってきたぜ。もし襲い掛かってきたら吠えずらかかせてやる。ブルーノは30階でも余裕で進めていたのかもしれない。だから、念には念を入れてより深いところまで進んできたんだ。

 なんせ俺はもう――。

 

「私の……いえ、私たちの目的を果たしにザ・ワンに向かいます」

「リアナたちも目的があったんだな」

「はい、何としても果たさねばなりません」

「そうか、ええと、ご武運を、姫」


 ヘクトールをちらりと見て、こんな感じだっけと騎士っぽい礼をしてみる。

 なんとなくだけど、ヘクトールの立ち振る舞いから騎士ぽいなあと思ってつい冗談めかして彼女に返してしまった。

 彼は聖魔法を使い、メイス、盾とまるで王国の聖騎士のような感じだったからさ。口調は騎士っぽくないけど。

 あれ、俺、何かマズイことを言った?

 リアナがわなわなと肩を震わせ、目には涙がにじんでいるじゃないか。

 彼女はギュッと小さな拳を握りしめ、口を結ぶ。


「はい、リアナは必ずや責務を果たします」

「こ、困ったことがあったら言って欲しい。俺の真の目的は一週間と経たず果たされると思うから」


 探索者の多くはその日暮らしでたいした目標を持っているわけではない。

 なんとなくお金持ちになってだらだら過ごしたいとか、もっと強くなってより深いところまで潜ってやる、とかせいぜいそんなところだ。

 ところが彼女は必ず果たさなきならない何かを得るためにザ・ワンに向かうと言っている。

 パーティの編成も只者じゃない感がアリアリだし、彼女らは探索者として生計を立てていこうとはしてないんじゃないか?

 どこかのお貴族様から何かの依頼を受け、集められたパーティかもしれないな。

 使い込まれていなさそうな武器・防具に比べ、20階クラスの探索者と比べても遜色ない実力を持っている。

 いや、例外が一つあったな。

 ギリアンの持つ大剣は新品じゃあなかった。

 彼女らと出会った時から何かしら事情があると感じていたけど、思ったより大きな責務とやらをもっているのかもしれない。

 

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