第37話 うもお

 外に出て換金を終えたが、まだ暗くなる前だったのである場所に向かうことにした。200階に到達したからさ。

 そう、マーモが出現したあの門に来たんだよ。

 そんでさっそく新たなパートナーを出してみたんだが……。

 

「俺に何か恨みでもあんのか……パートナーを出す門さんよ……」

『うもお』

「今回は喋りさえしねえ……」

『うもおおお』

「お、おい、ちょ」


 出てきたのは白と黒の柄の牛であった。自己紹介をするよう試みたが「うもお」としか鳴かねえ。

 しかし、俺の言葉が分かるのか不満を口にしたら角でお尻を突いてこようとしやがった。


「マーモ、こいつは何?」

『うし、だモ。見たら分かるモ』

「いやまあそうだけど……見た目も大きさもまんま牧場にいる牛だよな」

『牛じゃなくて「うし」だモ』

「名前が『うし』なんだな……」

『そうだモ。いつでも牛乳が飲めるモ』

「牛乳飲む?」

『モは飲まないモ。リンゴがあるからモ』


 ……。どうすりゃいいんだよこれ。

 パートナーだからダンジョンの中でも攻撃がすり抜けて平気なのだろうけど、何にも役に立たないじゃないか。

 あ、喉が渇いたら牛乳を飲める。

 わけねえだろうがあああ! モンスターがいつ襲ってくるか分からんのに呑気に乳しぼりなんてやってられるかよ。

 

「もういいや、農家のおじさんのところに行って野菜を買って帰ろう」

『サツマイモがいいモ』

「そうだな、俺もサツマイモは好きだ」

『うもおお』


 やれやれだぜ全く。歩き出そうとしたら、マーモに呼び止められる。

 

『速く行くモ』

「走って行こうとかどんだけだよ。急がなくてもいいだろ」

『うしに乗ればいいモ』

「俺が乗って動くことができるの?」

『馬より余程速いモ』


 ええええ。マジかよ。

 試しに乗ってみたら、うしは特に重そうなそぶりも見せずのっしのっしと歩き始めた。

 訂正。うしと共にダンジョンに行くと移動が速くなる。ただ、モンスターがいるダンジョンで騎乗状態で大丈夫なのかは試してみないと何とも言えん。

 ランナーで走って移動するよりは良いかもしれない。

 

 農家のおじさんと野菜を買うついでに周辺の土地のことを前回会った時より詳しく聞いてみたりしてたら夕焼け空が訪れていた。

 土地を買う手続きをする店については教えてもらっていたけど、まだ行かず終いだ。200階に到達したし、明日も10階層だけ進んで残りの時間を使い店を訪れてみようかな。いっそ丸一日を土地と家探しに使っても楽しそうだよな。すぐにお金が準備できるわけじゃあないが、見るだけでもいいのか店の人に聞いてみよう。

 

 なんて考えながらボロロッカの食事処で夕食を、と思っていたらボロロッカの入口でカエデとエンカウントした。


「クラウディオ殿!」

「やあ、探索帰りなの?」

「然りでござる。クラウディオ殿、またご一緒してくださらぬか?」

「うん、続きを進めようか」


 なんて会話していたのだが、さっきからカエデの視線がおぼつかない。

 触れぬようにしてたが、無理ってもんだよな。そう、彼女の視線はうしに向かっている。

 ヌタなんてすでにうしの腹をペタペタしているし、マーモは……まあいつも通り「はやく食べたいモ」で、食事処へはやく入りたそうだった。


「えー、まあ、なんだ、こいつはうしだ」

「クラウディオ殿は牧畜でも始められるのでござるか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。うしを連れて宿に入れるのかな……」

「さすがに難しいのでは」

「しれっと入ろうかと思ったのだけど、馬小屋を借りるか」


 うしの話は「後でね」と伝え、うしは入口で待たせて宿の受付に向かう。

 無事馬小屋を借りることができたので、ほっと一息、食事処である。

 

「うーん、相変わらず絶品だな、ボロロッカの食事は」

「そうでござるな」

「この後まだ時間はあるかな?」

「はい」

「ちょっと部屋まで来てもらえると」

「へ、部屋でござるか……」


 真っ赤になって目が泳ぐカエデに対し、首を傾けた。

 何か変なことを言ったか? リアナたちと重要な会話をする時はいつも部屋に行っていたのだが。


「ヌタももちろん一緒にね」

「ヌ、ヌタもでござるか。クラウディオ殿、思ったよりぜ……いや、なんでもござらん」


 勘違い甚だしいことに気が付いていたが、敢えて訂正することもなく食事を終える。

 ちょっといじわるだったかもしれないけど、たまにはいたずら心を出してもいいだろ、うん。

 

 俺の宿泊している部屋にカエデとヌタを招き、カエデは椅子に腰かけソワソワし、ヌタはマーモと遊んでいる。


「ここなら誰も聞いてないだろ」

「壁が案外薄いと聞いたような……でござる。い、いえ、嫌なわけではござらん」


 てんぱり過ぎだろ!

 さすがに心が痛んできた俺は早々にネタばらしをすることにした。

 

「うし、のこと話をするって言ってただろ」

「そうでござった」

「あいつさ、200階到達のパートナーなんだよ」

「200階に到達したのでござるか!!」


 み、耳がキンキンするう。

 

「こ、こうなるかなと思って、部屋に誘ったんだよ。ほら、食事処だと200階なんて叫んだら注目を受けてしまうだろ」

「し、失礼いたしたでござる。理解したでござる」

「新パートナーは会話もできないときたもんだ」

「き、きっと他に何か凄い力を持っているはずでござる!」

「騎乗できるみたいだよ」


 うーん、利用方法は今のところ騎乗のみなんだよな。ん、待てよ。

 俺はリアナたちと同行することを謝辞したくだりを思い出していた。

 

「カエデ、『コーガ』の里に行く話、急ぎではないのだっけ?」

「次の春までには……でござる」

「移動手段のうしと荷物持ちのマーモがいる今なら、里に行くのも楽だろうから、すぐ出立するのもいいかなって」

「かたじけないでござる。では、明日……いえ、明後日でいかがでござるか?」

「分かった。明日はマーモの箱に色々詰めるのと、うしに……あ、そうか、カエデとヌタで三人か。うしに何か曳かせるのがいいかな」


 しまった。移動するときは三人だったよ。うしに騎乗できるのはせいぜい二人までだよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る