第19話 もう一本食べたいモ
盛り上がったがリアナたちとのダンジョンツアーは一週間後となる。
話の流れから翌日にでもザ・ワンへ挑戦するのかと思っていたが、彼女らにも俺にも気になることがあってね。俺としては彼女らが探索者となりザ・ワンに挑戦し始めてから休日の少なさが気になっていた。階段を降りれば降りるほど敵も強くなる。俺との慣れない連携や進むんだ、という気負い、行ったことのない階層からのスタート、と不安要素をあげればキリがない。不安要素を少しでも軽減するには十分な休息が一番だろ。
一方でリアナたちの申し出は王都に行って戻ってくることだった。用事があるのはカティナとリアナの二人で魔法関連で何やらやるのだと。
言霊魔法なら呪文書から新たな魔法を習得することができたんだっけ? 新しい魔法となったら新しい呪文書いるだろうから。
コッズタウンでも手に入りそうな気もするのだけど、彼女らはコッズタウンに来たばかりだから慣れ親しんだ王都の方がやりやすいはず。
ザ・ワン攻略のために新たな魔法を習得するとは、彼女らの本気度が伺える。この分だとヘクトールとギリアンも王都で何か仕入れてきそうだ。
というわけで俺と彼女らの意見を合わせたら一週間後となったわけである。
「そんじゃあ、俺も装備を整えるか、と思ってました」
『誰に向って喋っているんだモ? もともと弱いと思ってたモ』
下手な装備を整えるよりダンジョンに潜ってモンスターを倒しステータスを上げた方が安全性に貢献するんじゃね、と思ってさ。
うまくいけば有用なモンスタースキルまで手に入るかもしれないし?
そんなわけで、ザ・ワンへ入りエレベーターを使って121階にきている。
ザ・ワンには当たり前のようにマーモがついてきていた。広範囲魔法やブレスを喰らった時、マーモは耐えることができるのか、とか心配したのだが彼にモンスターの攻撃は届かない。
体当たりされようが、刃で貫かれようが、ブレスだろうが全てすり抜けてしまうんだ。いやあ、121階に降りるなり剣の雨のような広範囲攻撃を喰らって、マーモの頭に剣が突き刺さっていて彼の特性に気が付いた。
頭から剣が彼をすり抜け地面に刺さっていたが、彼がペタペタと歩き出しても剣は刺さったまま微動だにしなくてさ。
もし攻撃がすり抜けるなんてことがなければ、今頃マーモはもう帰らぬマーモットになっていたことだろう。
正直彼と俺二人だという意識がなく、ソロのつもりで進んでいた。リアナたちとの本番では敵の攻撃がすり抜けるなんてことはない。
油断せず慎重に進むことにしよう。
気持ちを新たにして気分が良くなった俺はマーモの言葉に軽い調子で応じる。
「俺はこれでもスキルとステータスのおかげでそれなりに強くなったんだが……多分」
『弱いのはここだモ』
「こ、こいつうう」
『皆まで言わないと気が付かないところがダメだモ。箱開けるモ』
箱といっても宝箱ではない。例のアレだよ、アレ。
マーモの固有スキルで出すことができる空間魔法的な箱だ。箱の容積は大型のリュック二つ分より広い。
そして、その大半はマーモの餌で占められている……。俺の食事も突っ込んできたし、いざとなればマーモ用の野菜やフルーツも食べ……ようとしたら横から奪われそうだな。
「まだ探索をはじめたばっかじゃないか」
『開ければすぐ閉じるモ』
「しゃあねえなあ。リンゴかキュウリを一個だけだぞ」
『しけた奴モ』
もらえるだけありがたいと思えって!
いつモンスターが出てくるか分からない危険エリアで呑気に箱を開けてとかは勘弁していただきたい。
ザ・ワンの中で安全なのはボス討伐後のボスエリアだけだぞ。
蓋を閉め、ご満悦でキュウリをかじかじするマーモの背後に大きな影が忍び寄る。
本日一発目のモンスターは身の丈7メートル以上の巨大な蛍光緑色のカエルだった。
姿を現すなりパカンと大きな口を開けたカエルの口から長い舌が伸びる。
1Fにいたころの俺では目視することすら叶わぬ速度で真っ直ぐ舌が俺に迫って来た。
ちょうど舌が伸びるコースにモンスターが出たというのに我関せずでキュウリをカリカリするマーモが。
彼に対してはモンスターの攻撃がすり抜けるので本人に心配はないが、キュウリはそうじゃあないぞ。生意気な奴のキュウリを吹き飛ばしてしまうがよいぞ、カエルの舌よ。
ところがどっこい、マーモは目にも止まらぬ舌より更に高速でちょいと移動しキュウリを死守する。食べる口は休めないというふてぶてしさで。
あ、あいつ、中々やるじゃあないか。
「って、舌を躱さねえと!」
体を反らし何とかカエルの舌を回避する。
あ、あぶねえ。
俺の体スレスレを抜けていった舌は弧を描き俺を薙ぎ払おうとしてくる。
対する俺は高く跳躍しそいつを躱す。しかし、舌の動きはまだ止まらない。
右に薙ぎ払われた舌はくるりと反転し再びこちらに向かってくる。
「スキル『フレイムウィップ』」
舌の鞭に対抗するは炎の鞭だ。
着地すると同時に手から炎の鞭が伸び、舌の鞭と絡み合う。
手を引くと炎の鞭が引っ張られるが、相手の舌の方が遥かに力が強く俺の体が宙に浮き、吸い寄せられるようにカエルの方へ向かっていく。
そこで炎の鞭を消し、今度はこいつだ。
「スキル『アクアブレス』」
水流が手の平から発射されるも1秒も立たないうちにスキルの発動を停止させた。
水流はカエルに当たるでもなく奴の遥か上を通り抜けていく。
アクアブレスは奴を攻撃するために発動したわけじゃあない。水流によって泳いでいた俺の体が空中で停止する。
そう、カエルの頭上で。
ファングを出し、頭から突っ込むようにして無防備なカエルの鼻先を切り裂き、首元に深々とファングを突き立てた。
これが致命傷となり、カエルは光の粒となって消える。
どうでもいいが、時を同じくしてマーモがキュウリを完食していたじゃないか。
「よく食べていられるな……」
『もう一本食べたいモ』
「余計に体力を使うからもう次は一つ(階層を)降りてからな」
『脆弱な奴モ』
マーモの言葉とは裏腹に自分が強くなったことを実感していた。
1階はもちろん50階を過ぎた頃と比べても明らかにステータスが上がっていることを実感している。
ファングは出し入れしてもまるで疲労しないので考慮に入れないとして、フレイムウィップとアクアブレスを連続使用してもまるで疲れを感じていないのだ。
どれくらいスキルを使うと疲労を覚えはじめるのかスキル使用数を数えながら進むとするか。
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