第43話 戻ったぞ
コッズタウンに戻ってから一週間が経とうとしている。戻るなり休息をするわけでもなく、連日ザ・ワンに潜っていた。
カエデたちと一緒にね。彼女も俺と同じく200階に到達しパートナーを得たわけなのだが、俺と違って見た目華やかな騎乗できる生物だった。
白馬の額から角が生え尻尾が青白い炎に包まれたユニコーンと呼ばれる聖獣だ。うしと同じで喋る子はできないけど、馬のように嘶く。
俺との差が酷すぎるだろ。い、いや、うしの方がユニコーンより走るのが速いんだ。つ、つまり、うしの方がユニコーンより能力が高い。
うしの方が速いところに余計悪意を覚えるのだが、うしはうしで見た目を除けば大活躍してくれているのでこれ以上考えることはよそう。
そんなこんなで今日はザ・ワンに潜らないお休みの日になった。
「ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ、こちらもお持ちください」
前々から考えていたことを実行に移したんだ。あれだよあれ。お金を溜めて郊外の土地を買ってスローライフをしようってやつ。
農家のおじさんに紹介してもらったお店に訪れること数度、お手頃なところを見つけたんだよね。ふふ。
その場所とは牧場跡地である。といっても三年前までは運営されていた。元持ち主の人が高齢になって隠棲したいからと、売り払ったんだ。
退去した時からそのままなので、家も牧場も取り壊されずにそのままになっている。
三年の月日で風化が進み、傷んでいるが取り壊さず修繕すれば使えそうだと店の人が言っていた。そのために必要な大工の人たちだけじゃなく、家畜を扱う店の名簿まで用意してくれたんだ。
お持ちください、と彼が言っているのがそのリストである。
「家の修繕を先にやりたいんですけど、オススメの方のところへさっそく行ってみようかと」
「私の店の向かいへ行かれるのはどうでしょうか」
「手続きの後、そのまま向かいます」
「承知いたしました」
土地の売買を扱う店主と共に、彼の店へ戻り、購入資金を渡し手続きが完了した。
これであの牧場跡地は俺のものとなる。
「某も遊びに行ってもよいでござるか?」
「もちろん、部屋も沢山あるから泊ってもらってもいいよ」
付き添ってくれていたカエデに笑顔で応じた。
彼女にとってつまらない時間だったろうから、後で酒でもおごろう。
「ヌタも走り回りたいぽん!」
『腹が減ったモ』
パートナー組はパートナー組で待ち時間が長かったけど、仲良くやってくれていた。
マーモは腹具合のことしか喋ってなかったような気がするが……。
うしとユニコーンは牧場跡地に置いてきた。彼らにとっては広い牧場跡地の方が快適だろうから。
これからもまだまだザ・ワンに潜るけど、週に三回は潜らない日にしようと思っている。完全にザ・ワンへ行くことを止めるまではまだまだかかりそうかなあ。
生きて行くためにはある程度のお金が必要だし。
手続きを終えて、お次は大工へ依頼をし、修繕には10日かかると言われた。それまではまだボロロッカの宿で過ごすことにしようか。
せっかくだから、修繕後の新居になってから住みたい。
◇◇◇
ボロロッカの宿前が何やら物々しいのだが、また何か事件があったのかな?
以前、「解呪の書」騒ぎで見た時以来の騎士たちが宿の前を取り囲んでいる。取り囲むといっても隙間なく騎士が埋め尽くしているわけじゃあないので、中の様子を窺い知ることはできた。
馬車の前に立っているのは見知った顔だ。実は王女だったリアナと彼女とパーティを組んでいたヘクトール、ギリアン、カティナの面々である。
何事かと思ったけど、彼女らの顔を見てホッとした。彼女らなら、コッズタウンにとって害になるようなことはしないだろ。
安心したので、騎士たちと触れぬようにボロロッカの宿へ入ろうとしたら、パタパタとリアナがこちらに向けて賭けてきたではないか。
い、今来なくても、後で騎士たちがいないところで話くらいなら聞くのに。
と内心思っていてもこの場で「後で」と叫ぶわけにもいかない。
「クラウディオさん! お探ししていました!」
「え、これって俺を探しに来た部隊なの?」
「お止めしたのですが、第一王女となるとこれでも最低限なのです……」
「じ、事情は察した。ここじゃあなんだし、目立たないところに移動したい。例の門のところで待ち合わせでいいかな?」
コクコクと頷き合って、この場ではリアナと別れる。
すっかり忘れておりましたよ。わたくし。
解呪の書をリアナに渡して、そのうち王都へ向かうよ、と言っていたんだった。
コーガの里を訪れたところで、すっかりそのことを忘れていたという体たらくであるのだ。しかしだ、そう日にちも経っていないってのにまさか姫自らやってくるとか予想外過ぎる展開だぞ。
同行していたカエデにも事情を説明しておかなきゃ、だよな。何が起こったのか困惑している様子だし。
「綺麗な方でござる」
「俺が親しくしているカエデ以外の唯一のパーティでさ」
「そうだったのでござるか。孤高を追求するクラウディオ殿らしいでござる」
「追及しているわけじゃないんだけど……」
などと会話しながら、カエデにリアナたちとのことを説明する。全て聞き終えると彼女は感じ入ったようにうるうると瞳を潤ませていた。
「感服したでござる! 姫のために無償で解呪の書を渡しただけでなく、報酬も求めないとは!」
「パーティメンバーのギリアンが宝箱のことを教えてくれたからだよ」
別に聖人のように振舞ったわけではないんだと、彼女に説明するもなんかもうあっちの世界に行ってしまっていて、ダメだこら。
まあいいか、リアナたちはもうザ・ワンへ潜ることはないだろうから、カエデと一緒にパーティを組むこともない。
勘違いしたままでも問題ないだろ、うん。
ぺちぺち歩きながらも餌を欲しがるマーモの口にキュウリを突っ込みつつ門を目指す。
ゆっくり歩いて行ったからか、先にリアナたちが到着していた。普段閑散とし人の姿を見ないこの場所で物々しい騎士たちが並ぶ姿は違和感ありありだよ。
原因が自分なのだから、何とも言えない気持ちになってくる。
かといって、第一王女ロアーナ自ら足を運んでくれたので無碍にはできん。
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