第5話 探索者パーティと出会う
気勢よく先制したはいいが、一つ目巨人たちにまるで効いた様子がねえ。
むしろポイズンミストを喰らわせる前より動きがよくなっているような……。
『わっしゃわっしゃ』
『わっしゃ』
ずっこけそうになる雄たけびをあげた先頭の二体が俺に向け棍棒を振り下ろしてくる。
21階のマンティコアらに比べると動きは遅い。軽々と棍棒を回避しつつ奴らの懐に潜り込む。
ファング。
心の中で念じると、両手の拳から爪が生える。右、左とステップを踏みながら、それぞれの爪で一つ目巨人を切り裂く。
すると、二体の一つ目が光となって消えていくではないか。
「おや、一発か」
ファングは自動的に麻痺属性が付与されるようになったのだけど、使うまでも無かった。
ザ・ワンのダンジョンを下から上に進んでいるから、俺が強くなったってことかな? こいつらが群れるタイプのモンスターなら個々の体力が低いって線もある。
別にどちらでもいいさ。こいつらが倒せるのなら何も問題ねえ。
ファングを出したまま、風のように奴らの間を駆け抜ける。
ズバズバズバと走りながら奴らを斬り、奴ら全ては光の粒と化した。
ん、そういや脳内にステータスアップもスキルを獲得しました、のメッセージが浮かばない。ここに来るまでも同じモンスターを倒したときに何もメッセージが浮かばないことがあった。俺の方がステータスが高く、獲得できるスキルもない場合はメッセージが浮かばないものだと予想している。
ステータスとはスピード、力、魔力などを数値で表したものだ。俺はこれまで一度も自分のステータスを見たことがない。外に出れば有料でステータス鑑定をしてくれるサービスがあるが、わざわざ金を払ってまで知りたくもないな、とこれまで一度たりとも頼んだことがなかった。今後、深い階層へ挑むならステータス鑑定をしておいた方がいいかもしれないよなあ。というのは、幸運にも強くなれたので、今後も深層に潜ると思ってね。
モンスターの情報は金で買うことができる。モンスター情報にはのステータスを鑑定できる固有スキルを持つ者が調べたモンスターのステータスも記載されていて、自分のステータスと比べることでどれほどの脅威か比較できるんだ。もちろん、モンスターのステータスを鵜呑みにするのは危険である。奴らは様々な能力を持っているからな……。
「おっし、掃除完了」
光の粒が消え去り、新たなモンスターが寄って来る気配がないことも確認した。
ふううと息をはき、階段を探すかと動き出そうとした時、奥から声が聞こえてくる。
一つ目巨人の気配が大き過ぎて、奥の人の気配に気が付かなかった。注意を向けると反対側の奥は恐らく部屋になっていて、そこに息遣いから四人の探索者がいることが分かったんだ。ステータスアップの効果か気配を読む力も増しているように思える。
ひょっとして、奥にいる探索者たちは部屋の入口に一つ目巨人を誘い込んで倒していたのかもしれない。
1階で宝箱を漁る生活を続けていたが、探索者たちがモンスターを倒す意味はもちろんある。モンスターを倒すとステータスがあがるんだ。
恐らくモンスターを倒して光の粒になり、その一部が体に吸収されるから、だと思う。俺は一部じゃなく丸ごと吸収するので、一回でステータスが光となったモンスターの持つ上限まであがるし、スキルまで手に入るから光の粒がどういったものか体感している。なので、光の粒の一部が体に吸収されてステータスがあがるのでは、と予想したわけだ。
ステータスがあがるのとは別にもう一つモンスターを倒すメリットがある。モンスターを倒した時、稀に結晶が手に入る。強いモンスターほど大きな結晶が手に入るらしく、外の街で売れば稼ぎになるのだ。1階専門の俺にとっては宝箱を集める方が遥かに稼ぎがよかったから、久しくモンスターを倒していなかったのでモンスターを倒すメリットなんて久しく意識してなかった。
話が逸れてしまったが、奥の者たちがモンスターを誘い込んで倒していたとしたら俺が邪魔したことになる。
……。
…………。
面倒になる前に立ち去るべし。
「かたじけない、感謝する!」
動き出そうとした時、野太い声に呼び止められる。声で立ち止まったのがまずかった。続々と奥から探索者が出てきたじゃあないか。
探索者は全部で四人。
礼を述べ真っ先に出て来たのは俺より頭一つ以上低いが横に広い男だった。横に広いといっても脂肪を蓄えているわけじゃなく、筋肉が盛り上がっている。
肉の付き方からして人間とは思えないが、筋肉隆々で有名なドワーフにしては背が高い。耳の先が少し尖っているように思えるが……いや、詮索はよそう。
こげ茶色の髪に同じくこげ茶色の伸ばした髭の男は真新しい鎧に鈍器の代表格であるメイス、取り回しのしやすい丸い盾を持っていた。
いや、真新しい鎧だったもの、と言った方がいいな。今は擦り傷がついている。
他には軽装でダークグレーの長髪の戦士。彼の得物は両手剣だな。残り二人は少女で術師系に見える。共にローブを纏い、片方はワンド。もう一方は素手だった。
素手の方は耳の先が尖り……と彼らのことを俺はどこかで見たことがあるような……。全員の装備が新品かそれに近い状態だな、まるで新米探索者かのように。
「奴ら硬くてな、倒している間に次が湧いてきて集まってきやがる。助かったよ」
「もしかしたら余計なことをしてしまったと思って。よかったよ」
長髪の男がくしゃっと笑顔を見せる。ただ握手のために手を差し出しただけだというのに絵になる男だった。
イケメンって何してもイケメンだから憎らしい。すまん、個人的な恨みつらみなので彼が酷い奴だと言っているわけじゃあないんだ。
彼と握手すると後ろの少女たちもペコリとお辞儀をする。
続いて最初に声をかけてきた髭の男と握手を交わし、今度は俺から彼らに疑問をぶつけた。余り詮索するのは良くないと分かっているのだけど、真新しい装備の彼らが19階まで一気に進むことってできるだろうか? しかしながら、装備の真新しさはあるものの彼らの実力は確かだ。時間がかかったものの、一つ目巨人たちを仕留めていたわけだしさ。
「みんなを一階で見かけた気がしていてさ。気のせいだと思うんだけど」
そうなんだよ。どこかで見かけたかもと思い、そういや一階で見かけた真新しい装備の新米冒険者だろうパーティと人数が一致し、装備も似ているんだよなって。
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