第17話 説明が長いモ、餌を寄越せだモ

「あ、そこで魔法か。探知とか罠を調査する魔法を持ってるんだな」

「ご名答。感知・探知系の固有スキルを持ってんだ。使うたびに魔力を消費するタイプでな」


 固有スキルなら修練なしで使えるものな。それで大剣の修練に集中することで前衛としての力を身につけたってわけだな。


「へえ。そいつはすげえ」

「ザ・ワンもそうだが、外でも有用なんだぜ」


 よいなあ。俺も欲しいぜ。探知系スキル。探知系ならモンスターも持ってそうなんだが、未だ巡りあえていない。

 ひょっとしたら魔力を消費するタイプのスキルしいのかもしれないなあ。魔力消費タイプのスキルは恐らく俺の固有スキル「吸収」では習得することができない。

 俺が魔力持ちだったなら習得できたかもしれないけど、無いのだから仕方ないさ。

 なんでそう思うのかって? これまで習得したスキルに一つたりとも魔力を消費するタイプのものがなかったからだよ。

 モンスターの中には明らかに魔力を使って攻撃してくるものがいる。そいつらから魔力を消費するタイプのスキルを習得できてもおかしくないだろ。

 そのことから、固有スキル「吸収」で習得できるスキルは、俺が使いこなせるスキルに限って習得するんじゃないかって思ったってわけなんだ。


「それにしてもすんごいパーティだな」

「クラウディオのがとんでもねえよ」


 いい感じに酒が入ってきたギリアンが赤ら顔で大袈裟に肩を竦める。

 俺の場合はすごいのか、と言われると一か八かの賭けの結果得た固有スキル「吸収」が規格外だっただけ。

 宝箱の罠でモンスターを仕留めたのも遠い昔のことのようだ。

 俺のことに話が移りそうになったが、語るべきか迷う。

 彼らからハッキリと固有スキルのことやらを聞いたわけじゃないけど、割に話の流れで惜しみなく自分たちの能力を語ってくれてたんだよな。

 短い付き合いであるが、彼らのことは信用できる。恐らく俺の固有スキルはあまり吹聴すべきものじゃない。

 下手に噂が広まるとすげえと思われるより嫉妬を買ったり、寝首をかかれるかもしれん。

 そうなると探索者を続けることが難しくなってしまう。

 一部のやべえ奴を相手にこっちが気遣いしなきゃなんねえとは、腹立たしい話だが実際そうなのだから仕方ない。

 ああー、余計なことを考えるもんじゃあなかった。噂をすれば何とやらで、見たくない奴らが目に入る。

 タイミングの悪いことに向こうもこちらに気が付いたらしく、目が合ってしまった。

 見たくない奴らとはブルーノたちだ。きっと、あの後すぐに転移の書を使ったんだろう。

 ブルーノたちは「おい行こうぜ」とでも言っているのだろうか。こそこそ何かを語り合い、ボロロッカを出て行った。

 

「あの方たちは」

「まあ、もう変に絡んでくることはないさ」


 リアナもブルーノたちに気が付いたようで、眉根を寄せる。

 彼女たちは彼らに嫌がらせを受けたわけじゃないけど、いい思い出ではないだろうから。

 

「ん? 何か懸念があるの?」


 あいつらはリアナたちに対して恨みつらみってのはないだろうし、彼女らの方がより深層まで到達したとなればちょっかいをかけてくることはない。

 あの馬鹿どもが絡んでくるのは自分より「格下」と思っている者に限られる。ほんと小心者でこすい奴らだよ。


「クラウディオさんとの間に何かあったのかと思い。でしたら私たちもザ・ワンでは彼らに出会った時、警戒しなければと」

「ザ・ワンの中で会うことはもうないんじゃないかな。ああ、1階のエレベーターの入口は可能性があるか」

「彼らは熟練の探索者のようですし、より深い階層に進めば……」

「ないない。ブルーノは一応A級とかの噂だけど立ち振る舞いを見てりゃ、ギリA級か背伸びしてB級なのにA級って言ってるかのどっちかだ」


 更に、ブルーノのパーティメンバーも彼と同等か若干落ちる程度の実力だとも追加する。

 俺の意見に対し今度はギリアンが口を挟む。


「俺たちはB級だぜ? 会うんじゃねえの?」

「もうB級にあがったのか! おっと、話が逸れた。ブルーノたちじゃ30階が限界だろうからもう会わないって」


 かくいう俺は未だE級のままである。

 探索者センターで称号の書を提出すればランクアップできるはずだが、別に今のままでいいやと思って。

 パーティを組むなら自分のランクは重要になってくるけど、このままソロで行くつもりだし。

 今後は探索者センターで称号の書を含めてドサっと荷物を出さないようにしなきゃ。称号の書のことなんて頭になくて、たまたま見られたのが20階だったからよかったものの……100階とかだと大騒ぎになっていた。もちろん、俺の望まぬ方向への騒ぎである。


「そういうことか。俺たちは踏破した階へ戻るつもりはねえから、会わねえなあ」


 ギリアンの言葉にヘクトールが彼の名を呼んでたしなめた。


「ギリアン」

「悪りい、ヘクトール」


 ぼりぼりと頭をかき、ばつが悪そうに謝罪するギリアン。

 今のやり取りで何か彼らにとってまずいことがあったのか?


「あー、すまん。詮索するつもりじゃなかったんだ」

「クラウディオさんにその気がないことは分かってます。私たちは探索者として骨を埋めるためにここに来たわけではないのです」


 リアナであればヘクトールも止めることはなかった。そういや最初に出会った時にもリアナの意見を他のみんなが尊重していたな。

 気まずい空気が流れる中、リアナが笑顔をつくり問いかけてくる。

 

「クラウディオさんは目標とかやりたいことなどあるのですか?」

「うん、街の郊外に土地を買って家を建ててのんびり暮らしたいなって」

「隠棲ですか! クラウディオさんなら士官し騎士になることも、指南役として王都に居を構えることも、ここで名声を集めることも……」

「いやいや俺じゃ騎士さまにはかなわないよ」

「そのようなことはないかと……あなたほどの」

 

 とここまで喋ってリアナがハッとしたように口をつぐむ。

 俺としても別に騎士と実力を比較されることに興味はないから、この辺りで打ち切ってくれてちょうどよかった。


「俺は王都には行ったことがないんだ。これまでザ・ワンにかかりっきりだったから、いろいろ旅してまわるのも楽しそうだ」

「旅か。旅はいいぜえ」


 グッと親指を立てもう一方の手でエールを煽るギリアン。

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