第35話 解呪の書よりキュウリだモ
「俺はいつもボロロッカで泊っているから、受付に言ってくれれば伝言できる」
「拙者も良くここを利用しているでござる」
「おお、探索者の利用者はめっちゃ多いよな」
「ほぼ探索者だけと聞いているでござる」
外に出て清算をした後さっそく向かったのはボロロッカの宿に併設している食事処であった。
マーモじゃないけど、外に出てきてまず最初に何がしたいかと問われると、「食事!」と即答する自信がある。
朝早くにザ・ワンに入り、暗くなる頃に帰ってくるだろ。今はボス部屋で安全に休息できるから以前ほどではないけど、昼はちゃんとした食事がとれないんだ。
もちろんアルコール類もご法度である。いや、飲んでもいいんだけど、飲んだことで大怪我をしてしまっては何のためにダンジョンに入ってんだ、って話になるからさ。
朝食は朝食でこれから始まる探索のために腹いっぱい食べることもしない。
そんなわけで満足いく食事がとれるのってダンジョンから出た後だけなんだよね。となったらまず食べる、これだろ。
「エールをもう一杯頼む」
「拙者も」
「ヌタも欲しいぽん」
おっと、カエデはともかくヌタはダメだぞ。
見た目子供だからダメ、ダメよ。
ヌタの注文はさりげなく変更しておいた。
『キュウリが欲しいモ』
「はいはい」
絶え間なく餌を要求してくるマーモに餌を与えることも忘れない。
我ながらなんてすばらしい飼い主なんだ。ペットじゃなくてパートナーらしいが、ペットにしか思えん。
喋るけど。
エールの残りを飲み干しながら、あつあつの草食竜のモモ肉の揚げ物をむしゃっとかみちぎる。
うめええ。
「お待たせしました」
そこへちょうどよく追加のエールがやってくるってもんだ。
もう最高。この時のために生きてるって感じだよ、うん。
俺も大概だけど、カエデは華奢なのによく食べる。探索者は運動量が激しいってもんじゃないし、昼は持ち込んだ最低限の食べ物のみですごすものが殆どだ。
「ヌタと二人で食べるより四人で食べるとより食が進むでござるな」
「四人……あ、あれも入れてるのね」
「当然でござる。クラウディオ殿のパートナーではござらんか」
「そうだけど、一匹とか一体でいいんじゃないかなって」
なんてどうでもいい会話を交わしつつ食がどんどん進む。
五杯目のエールを空にする頃、いい感じで酔いも回ってきて満腹になった。
「ふう、食った食った」
「ごちそうさまでござる。そういえばクラウディオ殿」
「ん?」
「『解呪の書』を探していると。急ぎではなかったのでござるか?」
「あ、ああああああ!」
これじゃあマーモと同じじゃないかよ!
軽く食事をとったらリアナたちへ言伝を頼んで彼女らと落ち合おうと考えていたってのに。完全に飛んでいた。
食事を終えたその足で宿の受付へ行き、リアナたちにもし俺より早く降りてきたら待っててもらうように言伝する。
そこでカエデとヌタと別れ、マーモの首根っこを掴んで部屋へ向かう。
◇◇◇
翌朝、無事リアナたちと会うことができた。
さっそくブツを渡そうとしたのだが、オハナシは彼女らの泊る部屋でとのことだったので移動する。
「昨日は私たちも30階層進みました。戻った時、すっかり暗くなっていましたのでクラウディオさんを探さず、部屋で食事をとることにしたんです」
「30階層も進んだとはなかなか」
「いえ、騎士たちのうち最も進んだパーティは30階層進んだと聞いております。泊まり込みをしている騎士のパーティはより進んでいるのではと」
「他には『転移の書』を利用している騎士のパーティもいそうだな」
コクリと頷きを返すリアナ。
元々高い実力を持っているのなら、転移の書で進むことができる場所まで進んだ方が効率がいい。転移の書では何階に出るかわからないから博打だけど、何枚も転移の書を使えばある程度の階層までは進むことができるんじゃないかな。
協力してくれるのかは不明だが、Sランクの探索者の導きで何枚も転移の書を使えば既にリアナたちを追い越しているかもしれない。
「クラウディオの首尾はどうなんだ?」
リアナと入れ替わるようにしてギリアンが片目を閉じおどけた様子で問いかけてくる。
彼の気づきとリアナの提案がなかったら、昨日も彼女らと共に探索をしていたところだった。
「強い探索者とペアで潜ることができてさ。ガンガン進めたよ」
「ほお。罠はどうだった?」
「ギリアンの予想通り罠はなかった。引っ張っても仕方ない、こいつを」
トンと「解呪の書」の巻物をテーブルに置く。
持って行って、と手で示すとリアナが「まさか」と巻物を手に取る。
「こ、これは『解呪の書』ではないですか!」
「『解呪の書』と書いているのは確かだけど、聞いていたような効果があるかは確かめてないから期待した効果が得られるかは分からないけど」
「あ、ありがとうございます! クラウディオさん、是非、王城へお越しいただけませんか?」
「いや、あの、そうだ」
もう一つ、巻物を置く。
「こいつは『解呪の書』じゃないか!」
「実は更にもう一つある」
驚きの声をあげるギリアンをよそに懐から更に巻物を出す。
いやあ、たいしたものが無かった、というのは「解呪の書」率がやったら高くてさ。ひょっとしたら、マーモの幸運の効果でレアな解呪の書ばかり引き当てた説がある。
他は転移の書とかその辺が手に入ったんだよ。ミスリルとか魔法金属のインゴットを期待していたんだけど……。
「予備としてもう一個持って行ってほしい。なんならこれも」
「い、いえ。二個もあれば十分です!」
「それと、王城は先約があってすぐに行くことはできないんだ。その後なら」
「承知いたしました。クラウディオさんの先約が終わってから私たちも王城へ向かいたいところですが、申し訳ありません」
「一刻も早く、王城へ向かった方がいい。道中はくれぐれも気を付けて」
「そこはご心配には及びません。私はともかく、三人はクラウディオさんほどではありませんがなかなかの実力者なんですよ」
「だな」
実際に一緒に戦ったことがるから分かる。彼らならば横取りしようとする不貞の輩に遅れを取ることもないだろう。
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