第3話 また会う時まで
これから毎日街の人間にこの指輪を見せて、持ち主に心当たりがないか尋ねよう。
そう誓ったアヴェルスは、あの少年に返すまで失くさぬよう指輪の保管場所を考えることにした。
「お菓子の小箱があったはず。いや…」
菓子箱なんかに閉まってしまったら、この店に来る子どもたちにキャンディーを配る際、誤って指輪も渡してしまうかもしれない。そもそも、何かにしまうということ自体が危険だ。どこに閉まったかわからなくなってしまったり、なくしてしまったりする可能性がある。
「なら身に着けるのが一番か…」
持ち主ではない自分がこの指輪を指にはめるのは申し訳ないと思い、他に身に着ける方法を探した。
「…そうだ」
アヴェルスは近くの金物屋へと向かった。自分でも手の届く価格の丈夫なネックレスチェーンを購入し、それに指輪を通して首にさげる。
「これで失くすことはないな」
アヴェルスは胸元で赤紫色に煌めく指輪を握りしめながら、一人呟く。
「俺もこの指輪、君にまた会う時まで大切にさせてもらうよ」
― ― ― ― ―
城へ戻ったソワールは、まっすぐに自室へと戻った。マントを乱雑に椅子へかけると、ベッドに横たわりさっそく件の本の一ページ目を開いた。
一方その頃、弟がまた城を抜け出していたらしいと側近から聞いた国王――オーブは心配からソワールの部屋の前までやって来ていた。
どうやら自分は弟に嫌われてしまっているらしい。側近のサンピティエから、弟が自分との食事や謁見、とにかく会うことを拒絶していると聞いていた。
それでも兄として、なぜ頻繁に城を抜け出すのか聞かなくては。
そう思い立ちノックをしようとした時、「おやめになった方がよろしいかと」と背後から声がした。振り返るとそこには物憂げな表情を浮かべた側近が立っていた。
「今のソワール様はその…陛下を快く思っていらっしゃらないようで。私が何度説得しても物を投げつけられ「会いたくない」の一点張りでございます。今はそっとしておいて差し上げてはいかがでしょう」
即位し子どもが生まれて父親にもなった私は、きっとソワールの中にいる兄とは少し異なる人物になってしまっただろう。それを受け入れるのに時間がかかっているのかもしれない。ここは下手に刺激をしないであげた方が、あの子のためなのかもしれない。
「弟君のことは安心して私にお任せください」
微笑む側近の言葉に、オーブは扉をノックするのを躊躇い、最後には諦めてしまった。
「そうだな。弟のことを頼んだ」
きっと嫌われてしまった今の私に、ソワールにしてやれることはないのかもしれない。
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