第37話 旅支度、君たちのこれから

 旅に出るため、自室で支度を始めるソワール。

 明日には、ことになる。

 流石王弟と言うべきか、持ち物は山のようにある。それでもこれから旅に出る人間がその全てを持ち運ぶことは到底出来ない。

 思い出は鞄に詰めなくても持ち運べていいね、とソワールは苦笑しながらこれだけは持って行きたいという物を鞄に詰めていた。



「僕はもう誰かに仕えてもらえるような身分ではなくなる。これまで僕の書庫の番人として仕えてくれて、ありがとう」



弱々しく微笑むソワールに、イスバートは泣き崩れそうになっていた。

 ソワールの自室に呼ばれていた書庫の番人たちは、不意に彼に問われる。



「君たちのこれからについて話そうか」



 すると、丁度扉がノックされ「シュエットです」と声が聞こえた。通された彼も浮かない顔だ。それもそうだろう。今夜の騒動について父親から聞かされ、叔父がどうなるかも聞かされたのだから当然だ。



「来てくれてありがとうシュエット。君には僕の集めた本を全て譲ろうと思ってね」


「いいのですか」


「旅に持ってはいけないからね。お前なら物語を愛してくれるだろう?」



そう告げるとソワールはまず、ビノーコロに視線を向けた。



「ビノーコロ、君はどうしたい?」



ビノーコロは迷わなかった。



「書庫の番人でいるのはなかなかに快適でね。楽しいからこのまま続けさせてもらおうよ。今度は…」



彼はシュエットの両肩に手を置いた。



「シュエットの元でね」



驚いてこちらを見上げるシュエットに、ビノーコロは微笑みかけた。

 二人の様子を見て安堵したように微笑んだソワールは次にイスバートに視線を向けた。



「イスバートはどうしたい?」



ソワールはリアンから獣人である彼を託されている。イスバートが望むなら、兄に事情を説明して獣人であることが知れぬようこのまま城へ置いておいてもらうことも出来ると話した。



「君はとても優秀だし、兄様なら新しい側近にしてもいいと言ってくれるはずだよ」



けれどイスバートは静かに首を横へ振った。



「私は墓守になります。リアンの傍にいてやりたいのです」



イスバートの意思を尊重し、ソワールは彼を引き留めなかった。そして最後にソワールはアヴェルスに視線を向けた。



「ごめんね、アヴェルスと二人切りにしてくれるかな」

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