第35話 側近の嫌悪

 その場の誰もが驚く中、ビノーコロは苦笑しながらこと切れたと思われていたアヴェルスに声をかける。



「もう十分じゃないかな。ソワールがかわいそうだから、そろそろ種明かしをしたらどうだい?」



むくりと体を起こしたアヴェルスに、ソワールは何が起きているのかわからないといった表情で呆気に取られていたが、すぐに浮かべていた涙を流して彼の無事を喜んだ。



「申し訳ありません殿下。サンピティエさんが今まで殿下に嫌がらせをしていた輩だとビノーコロが気づいて、彼の悪事を暴くために一芝居打たせてもらいました」



ソワールを狙う人間の目的は、ソワールの大切なものを壊すこと。ソワールの最も大切なもの――人がアヴェルスだと知っているビノーコロは、すぐに合点がいったのだった。アヴェルスにはソワールの気持ちについては伏せて側近が嫌がらせの首謀者だと告げたのだ。



「もうあなたは終わりだ」



参加者全員の注目が集まっている。全員がサンピティエの口から彼が青年に毒を盛ったことを周知し、彼の素顔もはっきりと見たのだから。



「もう言い逃れは出来ない。潔く断頭台へ行くことです」



計画が失敗に終わったサンピティエは狂ったように笑い出した。



 一部の参加者がすぐに助けを呼びに行ってくれたおかげで、屋敷には兵が乗り込み彼は無事捕らえられた。



「いいかッ?。これで終わりではない」



ソワールを見る彼からは、これでもかというほどの嫌悪が感じられた。震えるソワールを、アヴェルスは背後に隠すようにして庇った。いつ兵の手を逃れて飛びかかって来るかわからない常軌を逸した目をしていた。



「私が捕まっても、王弟であるお前を狙う人間は大勢いる。いつまでも恐怖に怯えていればいいッ、ハハハハハハハッ」



 仮面を外されたせいで王弟だと正体が明るみになってしまったソワールは、彼を傍で一目見ようと詰め寄ってくる参加者たちに押し潰されそうになりながらも三人の書庫の番人と、場を収めようとする兵の背に守られながら屋敷を後にした。

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