第5話 緑色のしゃべる猫

 翌日。店主を見送った後、アヴェルスは迎えに来てくれた昨日の客人と共に馬車で城へと向かった。



「申し遅れました、私はイスバートと申します」


「俺はアヴェルスです、よろしくお願いいたします」



窓の外を眺めたり、車内の装飾をじっと観察したり、落ち着かない様子のアヴェルスに微笑するイスバート。



「そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」


「それは無理ですよ。王弟殿下の元で働くんですよ?。そんな高貴なお方の元で働くことになるなんて…想像したこともなかった」



話している間にも、アヴェルスの手は緊張で小刻みに震えていた。



「ところで俺はどんな仕事を?」


「到着してからのお楽しみです」



少し落ち着きを取り戻したアヴェルスが窓外を眺めていると、城の表にある荘厳な門が見えてきた。しかし、そこへ向かう道を逸れて馬車が向かったのは、なぜか人気のない城の裏口。

 どうやらここが目的地のようだ。慣れた様子で馬車から降りるイスバートに倣ってアヴェルスも馬車から降りる。ここからは彼が案内してくれるのかと思いきや、彼は一歩も動かない。



「イスバートさん?」


「ああ、すみません。私も職場への向かい方を知らないので、



知らない?。毎日働いている職場なのに行き方がわからないのか?。

 不安になり始めていたアヴェルスの足元へ擦り寄るように、美しい緑色の毛を持った猫が現れた。



「わあっ、物語に出てきそうな色をした猫じゃないか。どこから来たのかな?、よいしょっと」


「遅い。約束の時間を二分も過ぎています」



俺が抱えた猫に叱りつけるイスバートさんを怪訝に思っていると…



「二分くらい、遅れたうちに入らニャいだろうに。全くせっかちニャ男だ」


「しゃべる猫!、まさに物語のようだ。何方どなたの猫様なのですか?」



しゃべる猫に何の抵抗もなく話しかけるアヴェルスに、むしろ猫の方が驚いている。



「ほう。驚かニャいのだね。珍しい人間もいたものだ。イスバートと初めて会った時は大騒ぎだったのニャ。「ね、猫がしゃべったッ?」「ああ、いけない俺はどうかしている」と散々ニャ取り乱しようだった」


「あの時の話はもういいでしょう。とにかく早く案内を」


「わかったわかった。こっちさ、ついておいで」



しゃべる緑色の猫について行くと、いつの間にか大きな扉の前に立っていた。

 どうやってここまでやって来たのか、曖昧ではっきりと覚えていない。城内の景観を楽しみながら向かおうと思っていたのに、とても不思議だ。

 緑色の猫がいとも簡単に扉をすり抜けたことに驚く間もなく、大きな扉がギィと音を立てて開かれた。



「お入りよ」

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