第5ー2話 寝耳にリンゴ味の水飴を垂らして欲しい
ねぇねぇねぇねぇ!この可愛い弁当の存在に気づいてる!?
ほら見て!この卵焼き。枝豆入ってる!
ねえ、見えてる?鳳来寧々子の姿をした我が妹、拝堂真央よ。
身体を隣の席に向けながら弁当を食す。気づけ、気づけ、と念を込めながら完璧お嬢様を見るも彼女の姿勢は崩れない。
なあ、お前、真央なんだろ?
今朝は鳳来がお前の身体に入ってたから、必然的に真央が鳳来の身体の中に入ってるはずだ。
なあ、こっち見ろよ。鳳来のフリしたままで良いからお話しましょ〜。
ツーンとしたままお嬢様は動かない。
だからこちらから話しかけるしか選択肢がなかった。
「あの、真・・・鳳来さん?」
声に気づいたお嬢様は横目で一瞬だけジロッとこちらを睨み、しかしすぐに口角を少し上げて振り返ってくれた。
「・・・・なんのご用でしょうか?拝堂くん?」
お前も拝堂だろうが、とツッコミを入れたいがもちろん確証はないので言えない。
その代わり夏休み中の少年のように眩しい笑顔で弁当を見せてやった。
「これ見て。弁当!!」
「そうですね。弁当です」
そんな無機質な返答だけ残し、お嬢様は再び姿勢を正す。
え・・・?それだけ?
普通なにかしらの言葉のキャッチボールはあるだろ。受け取ったボールをそのままゴミ箱に捨てないでいただきたい。
「この弁当な〜妹が作ってくれたんだ」
「・・・・そうなんですか」
お嬢様は妹という言葉に反応を示す。
当然だ。俺の妹とはお前の事なんだから。
「そそ。わざわざ朝早くに起きてくれてさ。しかも俺の部屋に起こしにも来てくれるんだ」
「それはそれれは・・・仲がよろしいようで」
「ああ。世界一仲が良い兄妹とは俺達の事だぜ」
「へえ〜・・・・・へえ〜・・・・」
お嬢様の声が少し震えるのが分かる。
もし俺と偽妹の仲睦まじさに嫉妬しているとだと嬉しい。
どうだい真央さん?
鳳来はお前の身体の中に入っている間、模範的で献身的な妹を完璧に演じてるんだぞ?
別にそこまでになれとは言わないから、もう少し俺に優しくなって見る気はないか?
いや、別にツンツンな妹も好きなんだけどね?
そこは勘違いしないで欲しいんだけどね?
「俺の妹の写真見る?見る?」
「ええ?!じゃ・・・まあ・・・」
たたみかけるように俺にデレデレな妹の画像を見せる。もちろん、この前のツインテール真央の写真だ。まるでどこぞのアイドルのように、にゃんにゃんと猫のポーズをしながらペロッと舌を出した妹を見せる。
「・・・・!!??」
「どうだろ〜??可愛いだろ〜??」
「え・・・なにこれ!?・・・こほん。なにをしてるんですか?」
絶句した後にお嬢様の本性が見え隠れする。やはりこの鳳来の中身は真央のようだ。
自分の知らないところで自分の姿で痴態を振る舞われている恐怖に、真央はお嬢様の真っ白い肌をリンゴのように真っ赤にさせた。
どうだ!?
真央よ。お前は入れ替わりを甘く見てるんじゃないか?
自分の知らない所で変な事をされていても止められないんだぞ。
そして鳳来の暴走を止められるのは俺だけだ。もし俺に『入れ替わり生活』を助ける権限を与えてくれたら、お前の痴態・・・まあ俺にとっては眼福なんだが、とりあえず!もうお前にとって恥ずかしい写真は増えないぞ。
だから一言、『助けて』とお兄ちゃんに言ってみろ。
お嬢様は平静を装いながら写真をマジマジと見つめる。恐らくその脳内では、なんでこのような出来事が起こったかを高速で考えているのだろう。
「それにしても可愛いな〜。壁紙にしちゃおうかな」
「それはやめて!・・・やめた方がいいかと」
「なんで?」
「だって、その・・・そうです!プライバシーです。顔写真などを無闇やたらと人目のつく場所に映すのお勧めしません」
「・・・・・そうだね」
「もっと言うとその写真も消した方が良いです!消しなさい!危ないです!!」
「いやいや、それは流石に・・・」
お嬢様の目力は強くなる。鳳来の身体の上に真央の鬼のような形相で睨みつけてくるのが浮かび上がってくる。
だから俺はすぐにスマホにロックをかけ、鞄の奥底にしまうのだ。
そしたら今は鳳来寧々子である妹には手が出せないから。
それからお嬢様の皮を被った妹と授業を受けて、一日も終わる。
家に帰ろうとしたその時、下駄箱から一通の手紙が現れる。
そこには宛名もなく
『午後5時。駅前のカフェに来い』
とだけ綴られていた。
間違いない。真央(現在鳳来)からの呼び出しだ。
昼間の件でやっぱり俺に助けを求める事に決めたに違いない。
そうであって欲しい。
待ってろ、真央。お兄ちゃんが今行くからな!!
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