第4ー2話 七難無しの彼女はその髪で心を隠す
玄関を開けて最初に目に入った光景は、光沢のある2本の美しい毛髪を揺らす妹の姿だった。俺のプレイリストに入っている歌を鼻で鳴らしながら、妹の姿をしたそいつは近寄ってくる。
「おにーちゃん。お帰りー!!」
「はーい・・・・ただいまでーす」
この現象。これこそが今もっとも俺が悩んでいる事だ。
言わずもがな、目の前でニコニコと笑う妹の中にはあの完璧お嬢様が入っているのだが、鳳来が何を考えているのか皆目見当がつかない。
そしてつい二時間程前まで鳳来は俺の横で授業を受けていたはずだ。もちろん鳳来の姿のままで。
一体いつ入れ替わってるんだ・・・?
完全にランダムなのか?
まさか昼間の鳳来は、鳳来のフリをした真央だったなんて事は無いよね?
そしてなんで君はツインテールで踊っているのだい?
妹はその二本の触手を俺の腕にからみつけてくる。兄としては嬉しい事この上ないのだが、入れ替わりの事情を知ってるだけにフクザツな気持ちだ・・・・
「えっと・・・どうした?」
「どう?蝶々結び」
「ほどきなさいやい。なんでツインテール?」
「可愛いでしょう?」
「そりゃ可愛いよ。可愛いけど、そういう子供っぽい髪型は嫌いってこの前言ってなかったっけ?」
「えー?言ったっけ?」
妹はこてんと首を傾げとぼける。そしてそのままリビングのソファへと誘導される。
あーもう可愛いなー。その顔でそんな表情されたら、これ以上言及出来ないだろ。
丁寧に髪をほどき、ひと束を鼻腔に持っていく。生暖かいツバキの香りがふんわりと鼻に優しい。
「ちょ、ちょっと!匂いはダメです!!」
「ああ、ごめんごめん」
慌てた妹に押し退けられる。
あっちから巻きつけてきたのというのに、嗅ぐのはダメとは・・・少しくらい良いじゃないか。減るもんじゃないんだし。
・・・・て、あれ?
今、敬語だったよね。敬語だったよね!?
うっかりチャンスじゃん。
真央から警告されているように、俺は決して鳳来に入れ替わりに気づいた事を言わない。しかし鳳来が自らカミングアウトする分にはOKのはずだ。だからこそ俺は鳳来が真央の身体フリをしている最中に出すボロを探している。
そのうっかりをやんわりと指摘して、隠す事を諦めた鳳来が自らカミングアウトするのを狙っているのだ。
「あれ?いま『です』って言ってた?兄である俺に敬語を使った?」
「え・・・?」
すかさず指摘する。鳳来がボロを出す事は少ないので、こういった小さな違和感も突かないといけない。
まあ、そもそもの性格が違うってのが一番大きなボロなのだが・・・・ 俺が入れ替わりに気づいた一番の要素だし。
しかしその大きなボロは、一応は常識の範囲内なのだ。家の外と中で性格が違う奴がいるように、日によって性格が大きく違う奴だっているだろう。故にそこからは攻められない。
「です?デス?出酢?Death?いやーやっぱりおかしいなー。兄である俺に『です』なんて使う妹に育てた覚えはないけどなー」
「え・・いや・・・それは・・・」
「どうした妹よ?何か悩みでもあるのか?言ってみ?」
「それは・・・・」
耳まで真っ赤にして言い訳を考える妹とを見るに耐えないが、これも必要な事なんだ。さあ、鳳来よ・・・全部吐いて楽になれ。もう妹のフリなんかしなくても良いんだぞ。
涙を浮かべながら、妹は俺をキッと睨んでくる。それに一瞬たじろぐと、間髪も入れずにソファへと押し倒される。そして俺の口を塞ぐように、妹は髪での上にカーテンをしいてきた。
「言うから!妹でもお兄ちゃんに敬語使うから・・・使うですから・・・使いますから!!そこまで言うなら何度だって言ってあげるよ?です、です、です、です、でーす、でーす。これで満足!?」
採れたてのトマトよりも顔を赤くする妹は息を切らす。ツバキの芳醇な香りが口いっぱいに広がったが、今は窒息しない事に集中することしかできなかった。
「ゲホッゲホッ・・・・ごめんて。からかって悪かったよ。そうだな、兄に対してでも敬語くらい普通に使うよな」
「ふぅ・・・ふぅ・・・分かればよろしい」
妹は汗を拭いながらニコリと笑う。
そしてそのまま俺の右腕をホールドし、ソファに隣り合わせで座る。
やっぱ距離バグってるよな・・・俺からしたら嬉しいけど。
「じゃあドラマの続き見よ?あの刑事が自殺させたれたところから」
二日前に始めた、ある詐欺事件をモデルにしたドラマをつける。男の刑事が犯人の女との会話を辿って事件の真相を暴いたが、犯人によって自殺を強要される場面が映った。
ここで俺はある事に気づいた。
もしかして妹がツインテールなのって、昼間に鳳来とした会話が原因だったりする?
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