第10−2話 サビで身を包んで、ロックな音を出す
「それで・・・何が知りたいんだっけ?」
ゲーミングチェアに腰を下ろす万は、いかにも高価そうなパソコンとディスプレイをバックに俺と向き合う。
「とりあえず全部。お前が知ってる事」
「鳳来の?それともお前の妹、真央の?」
「真央の話もあるのかよ・・・全部だ」
「面倒くせー」
ここまで来たというのに万は乗り気でない。くるくると椅子を回して遊ぶ万の頭をワコちゃんがポカリと殴った。
「ほら、大事な事だから。ちゃんとする」
「はいはい・・・」
不貞腐れる万を横目にワコちゃんからカルピスを貰う。少し薄かったが、ワコちゃんの笑顔に何も言えなかった。
万がディスプレイの電源をつける。
そこには鳳来の写真が彼女のプロフィールと共に映っていた。
「なにこれ!?キモチワル!!・・・あ、ごめん・・・」
思わず声に出してしまった。案の定、万に睨まれる。
「キモいは言いすぎだろ」
「悪い」
「ま、良いや。これが鳳来のプロフィール。知っての通り、フルネーム鳳来寧々子。17歳なりたて。かの鳳来グループの一人娘・・・・と、ここら辺は別に良いか。知りたいのは入れ替わりに事だろ?」
「そうだ」
「そうだな・・・・入れ替わりについては俺もまだよく分かってない。とりあえず分かるのは、
1、入れ替わりは完全にランダム
2、外見の変化はなし
3、入れ替わり中の経験、記憶は中身の方に受け継がれる
4、おそらく入れ替わりによって中身の性格が変わる事はない
5、鳳来と真央は密かに連絡をとっている
6、二人がなぜ入れ替わりの事を秘密に試合っているかは謎
・・・ざっとこんな所だな。別に目新しいことはないだろ?」
確かに衝撃の事実や全ての謎を解くような情報はない。
万もあまり詳しくは知らないというのは本当らしい。
「『4、おそらく入れ替わりによって中身の性格が変わる事はない』ってのは本当か?」
「ほぼ確だな。まあここで言う『性格』っていうのは、言動よりも考え方のことだけど」
ということは、真央の身体に入っている鳳来はやはり鳳来の考えのもと動いているという訳か・・・・あの奇行は鳳来の意思で間違いなということだ。
こわい。
「じゃあ・・・5番は?」
「それはお前が聞いてきたやつだろ。二人はメッセージのやり取りをしている。ちなみに鳳来がメッセージのやり取りをするのは、真央、ワコ、そして両親だけだ」
「そうか・・・そう思うと、やっぱり最初の疑問にぶち当たるな。なんで鳳来は真央と入れ替わったのか?」
そりゃ、なぜ入れ替わりが起こったのかは分からない。
神様の気まぐれとか言われたらおしまいだ。
しかし、この二人が選ばれたのには何か理由があるはずだ。
そうだな。二人の共通点・・・・
「何かないか?二人の共通点?」
「共通点ねぇ・・・」
こちらは真面目に聞いているのに、万は俺の質問にニマニマする。ついでにその横のワコちゃんも、うふふと笑っている。
果たして共通点はあるのだろうか、ないのだろうか?
ワコちゃんが口を開く。
「そうですね〜強いて言えば『拝堂透くん』が共通点じゃないです?」
「俺!?」
耳を疑う。
「いや、そりゃ確かに俺は鳳来と同級生で、真央の兄ちゃんだけど。それを共通点とするなら『拝堂透と関わりある』だけだぞ。そもそも鳳来とだって数ヶ月前まで面識なかったし・・・」
「う〜ん・・・多分他にもあるとは思いますけどね」
「え?なに?」
「それは・・・うふふ・・・・」
ワコちゃんは笑ってはぐらかす。なにか隠している。なにを隠している?
問い詰めようかと考えていると万が横槍を入れてくる。
「いや、お前と鳳来はもっと前から面識があるはずだ。特にあの日、一年前、文化祭」
「一年前の文化祭っていうと・・・あれしか覚えてないぞ。『なりすましイジメ制裁事件』」
「そうそうそれそれ。お前が俺を捕まえた事件な。その時にお前と鳳来は合ってるはずだぜ。遠目で目が合ったとかじゃなくて、しっかり至近距離で」
「なんかお前軽いな・・・・俺まだ許してないからね、お前のやった事」
「良いよ。一生許してくれなくて」
万は少しだけ嬉しそうに言う。
ああ、こいつやっぱり反省しきってないと思った。
一年前を思い出す。
『なりすましイジメ制裁事件』
万知義が起こしたSNSアカウント乗っ取りの事件だ。
事の発端は文化祭の少し前。
いやしっかりと遡るともっと前。
ある女子生徒がいた仮にAとしよう。
Aは中学でいじめっ子だった。結構えぐい感じのいじめっ子だ。
Aは高校に上がってもいじめっ子のままで、同級生をいじめ始めた。
そしてなにがトリガーになったかは分からないが、Aの行いは万の怒りを買った。
万は持ち前の情報力を使って、AのSNSで大暴れ。
最終的にはAが不登校になるまでに至った。
もちろんクラスは大騒ぎ。というのも事件が起こったのは文化祭の準備期間中で、Aはクラスの出し物の劇で役を持っていた。あまり重要な役ではなかったとはいい、急遽代わりを用意しないといけなくなったクラスの皆んなは、ぼやいていたのを覚えている。
そういえば、あの時は裏方をやっていたから誰が代わりをやったのかは知らないな・・・あれ?誰だっけ?クラスの誰かに聞いたような?聞かなかったような・・・・?
とりあえずあの時は万との戦いで忙しくてあまり覚えてない。
それこそ文化祭当日に万を罠にはめてお縄につかせたんだ。
ああ、そうだ!あの時にもう一人、俺以外に万を捕まえようとした奴がいた。
そうだそうだ思い出し始めた。そいつと一緒に校内を逃げ回る万を挟み撃ちにしたんだった。
そいつは猫の着ぐるみを着ていた。そしてそれこそがAの劇中での役だったはずだ。
あれ・・・あの時は着ぐるみの中はAだと思ったけど、もしかして万の言いたいことは・・・・・
俺の考えを見透かしたように万は言う。待ってました、と言わんばかりに。
「そう。あの時、俺を追い回した着ぐるみ。あれが鳳来だ」
「うそーん・・・・」
ああ、そういうことね。
確かに面識あるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます