第11話 恋敵に対して塩対応はしない
少女は卓上に置かれた白い粉を舐める。紅茶に入れようと思っていたその粉は、想いに反してしょっぱく、少女は眉を潜める。
そんな拝堂真央を見た鳳来寧々子は、ふふふと不敵に笑う。
とあるカフェ・・・・ではなく、鳳来家の敷地の一角。
真央と寧々子は、ティーテーブルに互いに向き合って座る。
「久しぶりだね、寧々子ちゃん」
「久しぶりですね。真央ちゃん」
二人が最後に会ったのは、最初に入れ替わった時の頃。
入れ替わり時に鏡で顔を合わせるとは言え、互いに久々の会合だった。
「それで・・・今日はどういった要件で?」
ティータイムも程々に、寧々子は本題に入る。今回の集会は真央の発案。
ノータイム直球ストレートの質問に、真央は咽せる。寧々子の性格を考えると、すぐに本題を話す事になることは知っていたが、もう少し心の準備が欲しい真央だったからだ。
咳き込む真央は、紅茶を飲み干し。モジモジしながら、やっと口を開く。
「その・・・前に言ってた、兄貴・・・お兄ちゃんに告白するってにはいつになりそう?」
真央の質問に、余裕を見せていた寧々子も咳き込む。
「な、ななっ・・・・こほん。覚えていたんですね、その話。まあ・・・拝堂君の都合も考えないといけませんから。そうですね、このまま順調に高校を卒業したとして、大学生になったあたりでしょうか・・・?」
「大学生!?そんな長期間プランだったの!?」
思わず真央は叫ぶ。
「え?嘘でしょ?高校の青春時代は使わないの?」
「高校生の本文は勉強です」
「イチャイチャしたくないの!?」
「それは・・・したくないと言ったら嘘になりますが、それこそ入れ替わりの際に少しだけ・・・・」
申し訳なさそうに、恥ずかしげに寧々子は言う。
「え〜・・・なんか思ってたのと違うな・・・・」
「思ってたの?」
「なんでもない・・・」
真央は少し考える。予定が狂ったからだ。
しかしその透譲りの頭の回転の速さで、ある事に気づく。逆にこの展開は彼女にとって好都合な事に。
そんな想いと、思いついた事が真央の口から溢れた。
「じゃあ・・・・さ。私が寧々子ちゃんの身体で兄貴・・・透に告白しても良い?良いですか?」
「・・・・ど、どういうことですか?」
寧々子の持つティーカップが揺れる。一方で真央の視線は揺らがない。
どんなに顔を真っ赤にさせても、嘘ではないということだ。
「好きになったのですか?実の兄を?」
「好きになったというか、ずっと好きだった。隠しとくつもりだった。でも、今は打ち明けられる」
「入れ替わりによって?」
「・・・・うん」
「・・・・・」
二人の間に静寂が流れる。寧々子からしたら頭ごなしに却下していい提案だったが、そんな事はしたくなかった。寧々子自身も真央の身体を使って透とイチャついているからだ。何より、真央の気持ちを否定しても良いのかに迷っていた。
「・・・もし、もし仮に、真央ちゃんが私の身体を使って拝堂君とお付き合いしたとして、どうなるんですか?」
「それは・・・ハッピーエンド?私と寧々子ちゃん交互に青春ライフ的な?」
「もし入れ替わりができなくなったら?」
「それは・・・」
真央の言葉が詰まる。
しかし二人にはもう一つ想定しないといけない事があった。それはある意味、入れ替わりが終わる事よりもバッドエンドだ。
「もし・・・真央ちゃんが私の身体で告白して、断られたら?」
「それは・・・でもそれは絶対に無い!!寧々子ちゃん可愛いし、性格も良いし」
「でも告白するのは真央ちゃんです。いくら私の身体を使っても中身はあなたです」
「分かってるよ!分かってるけど・・・・それしかないんだよ!妹が兄に好きって伝える方法なんて!!」
涙を目に浮かばせながら、真央の感情はぐちゃぐちゃだ。
倫理的にアウトで常識的にアウトな禁断の恋が可能になった時、人は何をするのか。そんな難問は学年一位の頭脳を持つ寧々子にも分からない。
ただ、同時に、寧々子は自分を見つめ直す機会を得た。
ここまで真っ直ぐに恋に突っ走れる真央を見て、自分の完璧で合理的な考え方に。脆弱さに。
純粋禁断少女に感化され、完璧お嬢様はある決意を固めた。
「私は・・・私はあなたが羨ましいですよ、真央ちゃん。そこまで愚直に恋に全力投球で」
「いや、卑怯者だよ。人の身体を使おうとしてるんだから」
「いえ、本当の卑怯者なら私の許可なしにやっていた事でしょう。そして本当の卑怯者は私です。真央ちゃんの身体を使って、透君を騙して遊んでもらっていた」
「騙して・・・・」
もちろん真央は、透が気づいている事は言わない。言えない。
だからここでは透は常に騙されている事にしないといけない。
寧々子は続ける。宣誓を。
「もう騙すのはやめましょう。自分自身にも、透くんにも。私は私の気持ちを正直に透くんに伝えようと思います。恋敵に塩を送る訳ではないです。これは私の恋のためです」
「それって・・・告白するって事?」
「はい。遅くても3・・4ヶ月・・・やっぱり半年以内には。成功した暁には、一緒に透くんの彼女になりましょう。この
真央の潤んだ瞳は、寧々子の凛とした笑顔に照らされる。
いつもの不敵で少し冷たい笑顔と違う、暖かい、熱い、覚悟の微笑みだった。
「良いの?寧々子ちゃん?」
「ええ。いずれはするつもりでしたから。今は勝算もありますし」
「勝算?」
「はい。この前一緒に買い物に行きました。もはやカップルと言っても過言ではありません」
「おお?」
過言だろ、と真央は心の中で思うも、感謝の念が上回ったためそんな無粋な事は言わない。
ただ、真央の脳裏に一抹の不安がよぎった。
それはやはり入れ替わりの件だ。
寧々子は知らないが、透は入れ替わりについて知っている。
もし寧々子が告白して、二人が両思いだとしても、今の寧々子の半分は真央。
時折自分の妹になる同級生からの告白を、透は快く受け入れるだろうか。
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