第12話 筆で行われる攻めと受け

 授業中。ペンを落とす。拾おうとすると、隣の鳳来が腕を伸ばして拾ってくれようとする。しかし鳳来も俺が拾おうとした事に気づいたのか、どちらがペンを拾うかという攻防の中で見つめ合う。


 数秒の沈黙と凝視の末。鳳来はプイッとそっぽを向いた。謎の戦いに勝った。

 そこから至って真面目に授業を聞いていると、鳳来が横から声をかけてくる。


「あの・・・拝堂君、拝堂さん、拝堂様」

「え・・・急になに?」


 やたら仰々しい呼び方に恐怖を覚えながら鳳来の方を向く。数学の授業だというのに、英語の教科書で顔を覆う鳳来は微かに震えている。その声も震えている。


 真面目な鳳来が授業中に話しかけてくるとは珍しい。何か悩み事だろうか。


「どうしたの?」

「あの・・・その・・・今日はいかがお過ごしで?」

「まあ別に悪くないけど。強いていうなら昨日また妹に舌打ちされてちょっと心が死んでる」

「そうですか・・・・」


 会話は終了する。

 え?それだけ?とツッコミたくなる。鳳来の声色からしてそれだけでないのは確かだ。

 なにか聞きたかった事でもあったのだろうか・・・・鳳来が俺に聞きたい事、そして聞き渋る事・・・・


 そんなものは一つしか思いつかない。


 まさか入れ替わりに気づいた事に気付かれた!?

 いや違う、ついに入れ替わりのカミングアウトか!?


「鳳来?まさか!?」


 俺の小声の叫びに鳳来は小さく頷く。どうやらその時が来たようだ。


「おお、ついにか!」「拝堂君。一緒に勉強会を開きませんか?」


「「え!?」」


 声が重なる。

 完璧お嬢様、鳳来寧々子からのお誘いを受けてしまった。


 ー


 薔薇が咲き始める季節だ。

 鳳来邸を囲うカラフルな花壇に魅入られる。

 手には菓子折り。デパ地下のちょっとお高めのやつ。横にはワコちゃんが立っている。


「うふふ。透くん、ちょっと気合い入りすぎじゃないです?」

「いやいや。ワコちゃんがカジュアルすぎる」


 襟付きシャツ長ズボンインの俺とは相反して、ワコちゃんはTシャツにショートジーンズだ。

 近所のコンビニに行くみたいな格好だ。


「学校帰りに制服でくればよかったのに・・・」

「いや、土産が必要でしょ」


 眼前に広がる豪邸に足がすくむ。


 こんな漫画みたいな家って本当にあるんだな。

 そうだな・・・造形的には『美少女庭戦士 ガーデンメイデン』の最終レベルの家に似てるな。美少女キャラを操作して敵と戦いながら庭を綺麗にするゲームだ。

 キャラクターが可愛いんだよなー・・・ちょっと真央に雰囲気が似てて愛おしい。


 ジーパンにへそを出したTシャツを着た活発な少女で・・・・ツインテールでとにかく可愛いのだ。


 そんなくだらない事を思い出していると、鳳来邸の柵が開く。

 ワコちゃんと玄関まで進む。慣れた足取りから、というかワコちゃん自身が言っていたが、彼女は鳳来邸に度々訪れているようだ。


「い、いらっしゃい!」


 玄関の扉が開くと、そこには茶色の髪の毛を2本に束ねた少女が立っていた。少女の着る白いTシャツの丈は短い。そのスリムな白い腹とへそが顔を出している。少女はタイトなジーンズを履いている。そのモデル体型をよく活かした服装だ。


「そうきたか・・・・」


 ワコちゃんがボソリと呟いた。


 鳳来よ。

 君は家では結構ヤンチャな格好なんだな。

 それとも何か意図があるのか?


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