第10話 サビで身を包んで、ロックな音を出す
シャカシャカと身を揺らしなながら、ユラユラとテンポの良いサビを漏らす万のヘッドホンを強奪する。突然の音泥棒の登場に万は一瞬だけ困惑して、俺の顔を見て眉間に皺を寄せる。
「おお!・・・なんだ拝堂か。何の用だ?ヘッドホン返せよ!」
お怒りだ、流石にヘッドホンをいきなり取るのはやりすぎたかもしれない。
しかし俺は引き下がる訳にはいかない。
「万、知ってる事を全部教えろ。そしたらヘッドホンも返す」
「あ・・・?俺に物を聞くときは・・・・」
「相応の対価が必要だろ?知ってるよ。『情報屋』もビジネスだもんな。だから単刀直入に言う。お前の秘密を知られたくなかったら、全部教えろ」
万に教室の外を見るように促す。
そこには両手を合わせながら、ぺろっと舌を出すワコちゃんが立っていた。状況を理解した万は大きなため息をついた。
「はあー・・・ついにバレたか。まあ、別にそこまで隠すつもりもなかったけど・・・それでも言いふらされたら面倒臭いな。というかどうやって知った?」
「これ」
俺は万にスマホの画面を見せる。ワコちゃんのSNSにアップされた画像を見せる。
チュロスを持った、サングラスをかけたワコちゃんの写真だ。
「いや・・・・それじゃ分からないだろ。映ってるのはあいつだけだし」
「いや、ここ見てみろ」
写真のワコちゃんのサングラスをアップにする。そこにはヘッドホンを首からかけた人影がうっすらと映っている。
「これお前だろ?」
「いやいや、だからこんなんじゃ分からないだろ」
「いや分かる。シルエットがお前そっくりだし、このサングラスだってお前の奴だ。去年の修学旅行でかけてたのを覚えてる」
「きっしょ、なんで覚えてるんだよ」
「それにこの投稿のバックミュージック。お前の好きそうな系統のバンドだ。他にもいろいろ理由はあるが・・・・まずは教えてもらおうか?」
「何を・・・・?」
万の質問にしばし言葉が詰まる。
こいつがワコちゃんと親しい関係で、入れ替わりの事を知ってると言うことは分かっている。十中八九、こいつは知ってる側だ。ワコちゃんの前に言っていた協力者もこいつだろう。逆にこいつ以外考えられない。
しかし万が一、俺の勘違いだった場合、俺は第三者に入れ替わりの事を吹聴することになってしまう。だから言葉を絞っていたのだが・・・・
「分かってるんだろ?教えろ、じゃないとお前とワコちゃんが付き合ってる事を校内新聞で書くぞ」
「は!?いや、ただの従兄妹だから」
俺の配慮ある小声の脅しに、万は大声で弁明する。
あれ・・・聞いてた話と違うぞ?
「え?あっちは付き合ってるって言ってたぞ」
「はあ・・・遊ばれたな。ただの従兄妹だよ。それ以上でも以下でもない」
「うそーん・・・・」
再度教室の外にいるワコちゃんを見ると、今度は俺にぺろっと舌を出してくる。それを見た他の男子共がドギマギしているからやめて欲しいものだ。
「それで・・・教えてくれるか?」
「だから何を?」
「それは・・・」
代わりの言葉がなかなか見つからない。鳳来を示唆する言葉を言っても怪しまれるかもしれない。入れ替わりという単語も極力使いたくない。俺が『入れ替わり』について調べているということが、万が一にも鳳来の耳に入ったら芋づる式にアウトだ。
頭を回転させながらうなだれていると、流石の万も勘弁してくれたらしい。意地悪いニヤケと共に、俺からヘッドホンを奪い取る。その代わりに情報を置いて。
「へへ、もう良いよ。悪かったな意地悪して。ちょっと試させてもらった。良いよ。俺が持ってる情報を教えてやろう・・・そうだな。学校終わったら俺の家に来い」
学校終わりに俺は万の家を尋ねる。
都会のど真ん中にあるタワーマンションだった。
万家のインターホンを鳴らす。
ガチャリと開いた扉の先には、タンポポの綿毛が飛び交う野原の香りが香る。
「はーい。いらっしゃいませ〜。透くん」
エプロンの下にモコモコなルームウェアに身を包んだワコちゃんが中から飛び出てくる。
その奥で万も手を振ってくる。
「え?同棲?」
「うふふ・・・」
「違う!まさかの隣同士なんだよ」
気怠そうに言い放つ万に、やはりワコちゃんは聖母のような笑顔を見せる。
というかワコちゃん・・・そのルームウェア買ったんだね・・・
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