第14話 葉は花になる

 この気持ちを口にしたところで、花が咲くとは限らない。

 でもツボミまで育てるのを手伝ってくれた友人とライバルがいる。

 その者達のためにも、自分自身のためにも、花が咲くまで努力しないのは失礼だろう。


 自分で言うのもなんだが、昔からなんでも出来る子だった。

 ある程度の事は一度見たら理解できた。成績も運動神経も容姿もスタイルも人並み以上にはある事を自分で理解していた。


 心を許せる相手が少ない方だが、人と喋る事を苦に思ったことはない。幸運な事に自分の事を気にかけてくれる幼馴染も居たことで孤独を感じたこともない。


 両親も自分には勿体無いくらいに素晴らしい人で、まだ高校生ながら順風満帆な人生を送っていると胸を張って言える。


 でも・・・この高校二年生までの十七年間で、一つだけ良くも悪くも印象深い事がある。


 それは一年前の文化祭で起こったとある事件の話だ。親友を虐めようとしていた同級生に、親友の従兄弟が制裁を加えて不登校にさせた事件だ。


 悲しい、そして虚しい事件だ。


 加害者の女生徒はそれから学校に来ていないし、それに喜んでいる生徒の数が多いのも事実だ。結局その事件は一人の悪人の犠牲で、多くのその他が笑顔になるという結果で終わった。


 私にとってもそれはただの思い出の一つでしかなく、加害者を助けられなかった事をたまに悔やむくらいで、気づいた時には忘れそうになる。


 なぜなら私にとってその事件は『万くんが私刑を下した話』ではなく『鳳来寧々子と拝堂透が出会った話』だからだ。


 あの日、文化祭の日。急遽クラスの劇に出る事になった私は、万くんが加害者のSNSを荒らしている事に気づいた。そしてもう一人、万くんに辿り着いた人がいた。


 それが拝堂くんだった。


 彼がどうやって万くんを探し当てたかの詳しい経緯は知らない。あまり関心もない。

 でも私はあの日から、彼を自然に目で追うようになった。


 簡単に言うと一目惚れというやつかな。


 それから、自分の中の勇気を探しながらただ彼の事を見てるだけだった。

 そして超常現象が起きた。


 好きな人の妹ちゃんと身体が入れ替わったのだ。

 いや・・・入れ替えられるようになったと言うべきだろうか。


 あの時。願えば真央ちゃんと身体を入れ替えられるようになった。

 たまに意思と関係なく入れ替わる事もあるが、私は好きな時に好きな人の妹になれる能力を得た。


 卑怯だとは思いつつも、私は真央ちゃんのふりをしながら拝堂くんに近づく事を許されたのだ。


 入れ替わりを利用して、たくさん甘えさせてもらった。

 拝堂くんを喜ばせてあげたくて、たまにやりすぎてしまう事もあったが、楽しかった。

 彼の事もよく知れた。

 卵焼きが好きな事。父親よりも母親との方が仲良しな事。意外とアニメや漫画にどっぷりハマる性格な事。妹ちゃんが大好きな事。


 同時に真央ちゃん・・・入れ替わり相手の事も色々知ってしまった。

 兄である拝堂くんに想いを寄せている事には驚いた。


 勇気がないから彼に想いを告げられない私とは違い、妹だからという理由で想いを隠さないといけない真央ちゃんに私は同情した。

 だから恋敵と知りつつも、背中を押してしまった。いや、押させてもらったのだ。

 そして押してもらった。


 昨日、真央ちゃんとした約束。

 互いの本当の姿で本当の気持ちを伝えよう、という約束。


 私は覚悟を決めました。

 もう、真央ちゃんの身体はいらないよ。


「来たよ、鳳来」


 拝堂くんの声に振り返る。

 やっぱりこの身体で聞く彼の声は少し特別に感じる。

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