第13-4話 意味のある猿真似にオチを求めてはいけない

「うん・・・・知ってた」

「・・・知ってた??」

「うん、入れ替わりの件、普通に知ってた」

「普通に知ってた!?」


 寧々子ちゃんは妹の身体で二歩後ずさりする。まるで何かの戦隊ヒーローのような構えで驚いているが、それにツッコムだけの元気がなかった。


 とりあえず一回、休ませてくれ・・・・・

 何が起こってるのかも、何が起こったのかも、まだ理解がおっついてないんだ・・・・


「いつから気付いてたんですか・・・?」


 ごめん寧々子ちゃん、今はそれについて話してる余裕がないんだ。


「え!?いつから!?まさかあの時もですか!?」


 いつから・・・・?

 いつからだろうか、真央が・・・その・・・俺にそういう感情を抱き始めたのは。

 いつから真央はその気持ちを隠していたのだろうか?そしてそれは辛いものだったのか?


「・・・本当に知ってたんですか?そしたらそうと言ってくれれば・・・・」


 そうだよ。なんで言ってくれなかったんだよ。

 いや違う・・・今日、言ってくれたのか・・・

 そして今日、終わったのか。俺が終わらせたのか。

 俺が謝るのは違うだろう、しかし、どうすれば良いのかが分からない。

 俺は良いとしても真央が心配だ。振った俺が言うのもなんだが、真央は大丈夫なんだろうか?


 それとも今みたいに、俺を男として見てくれた真央に対して、ひたすらに兄として振舞うこと自体が真央を傷付けてしまっているのだろうか?


「いえ、それはありません。ブレてはいけません」


 まるで俺の心を読んだかのように、ピシッとバシッと寧々子ちゃんの一言が俺の思考をぶった切った。心に直接語りかけてきたようなその言葉に、視線は再び大粒の涙を頬で乾かす妹に移る。中身は寧々子ちゃんだが。


「真央ちゃん、遂にしたようですね・・・」


 何をしたかは寧々子ちゃんは言わない。言わなくても分かるから。


「なに・・・??心読めちゃう系だっけ?」

「いえ。なんとなくです」

「すごいな。なんとなくで分かるんだ」

「ええ・・・・でも拝堂くんだけです。仮にも隣の席ですし。超常的に半分は妹ですし。一応は・・・・」


 モニョモニョと会話の末尾を濁らせる。

 なんだろう?言ってくれないと分からない。


「まあ、とにかく。いつから知ってたんですか?入れ替わりについて」

「そうだな・・・・あのツインテールくらいかな」

「ええぇ・・・もの凄く前じゃないですか・・・」


 寧々子ちゃんは渋い顔をする。

 前から思っていたが、意外と表情豊かなようだ。


「本当に本当に気付いてたんですか??」

「そうだよ」

「じゃあ、あの添い寝をした日も?」

「うん」

「弁当を作った日も?」

「まあ、知ってたよ。一緒にドラマ見た日も。漫画を読んだ日も。その・・・一緒に風呂に入った日も」

「・・・お風呂?」

「あ、いや、なんでもない」


 問題が一つ増えたようだ。

 そろそろ頭が痛い。


「それで・・・拝堂くんはどんな気持ちで私と接してたんですか?」


 寧々子ちゃんは尋ねてくる。

 答えは一つだった。


「分からない、だよ。なんで入れ替わってるんかはもちろん、なんで普段とキャラが違うのかも」

「拝堂くんは・・・・その・・・どっちの私の方が好きですか?」

「そうだな〜・・・普段の方は落ち着いた、頼り甲斐があってい話してると落ち着くって感じで、妹の時は愛嬌があって一緒にいて楽しいって感じで・・・・どっちかというと普段の方かな?やっぱり真央の姿であれだと違和感あるし」


 自分でも分かるくらいに小っ恥ずかしい発言に身体が火照ってきた。寧々子ちゃんもモジモジしながら照れている。


「ふふ・・・やっぱり拝堂くんは真央ちゃんの事が好きですね」

「・・・兄としてだけどね」

「そうですね。兄として」

「でも・・・真央にとっては違ったみたいだけどね」

「ええ、そうですね」


 寧々子ちゃんはケロッと答える。否どっちかというと何か美しい物を見るような目だ。


「寧々子ちゃんは知ってたのか?真央が俺の事好きな事?」

「はい。一応は身体を共有する仲ですから」

「そうか・・・なんで俺は気づけなかったんだろうな・・・兄ちゃんなのに」

「兄だから妹の事はなんでも分かる、なんて自惚れです。人は結局自分の50%までしか他人に見せられないんですから。100%分からないからって気負う必要も、悲しむ必要もないんです」


 そうだよね。どんなに頑張ってもさらけ出しても、結局は自分の50%しか他人に見せられない。どんなに100%を見せても、相手にとってはまだ何かを隠しているように見えるから。


 しかし今のフレーズ。どこかで聞いた事があるような・・・・


 あ・・・・


「そうです。思い出しましたか?」


 またまた寧々子ちゃんは俺の思考を読んでくる。


 今、寧々子ちゃんが言った言葉。それは俺が一年前に言った言葉だ。


「そうです。拝堂くんがあの日、着ぐるみを着た私と万くんに言った言葉です。そして私はあの日から・・・・」


 夕日に照らされ笑顔を見せながら、妹の外見の寧々子ちゃんは近づいてくる。今回はゆっくりと、普段の寧々子ちゃんと遜色ないほどににお淑やかに。


 寧々子ちゃんは言う。


「あの日から私は、私の100%をあなたに見て欲しかったのです。明日・・・明日の放課後、校舎裏にきてくれませんか?そこで私の全てを知って欲しいのです」

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