第13-3話 意味のある猿真似にオチを求めてはいけない

「いやいや。もう演技はいいから。鳳来・・・寧々子ちゃんだろ?隠してたけど入れ替わりの事は知ってるんだ。なあ、寧々子ちゃんなんだろ?」」

「違うよ。真央だよ。兄貴なら分かるでしょ?」

「いやいや・・・もういいよ、鳳来。な、やめようぜ?」

「・・・・・」


 真央は何も答えない。俺の事をただじっと見つめてくるだけだ。


 分からない。意味不明すぎる。分からなすぎるよ。我が妹よ。

 耳の中も外も恐ろしいほどに無音だ。なのに思考にノイズが止まらない。


「・・・・本当に真央なのか?」

「そうだよ」

「じゃあ・・・」

「確認の質問なんてなくても分かってよ」

「本当に真央なんだな・・・じゃあさっきのアレは・・・・?」

「・・・・告白?あれも本当。寧々子ちゃんじゃなくて、私が言った」

「そう・・・・なんだね・・・」


 ダメだ。

 聞けば聞くほど意味がわからない。

 真央が俺の事を好き??

 どういう事だ?

 どういう事だ?

 どういう事だ?


「兄妹・・・だぞ」


 声が掠れる。困惑で舌が上手く回らないのと、まるで酒が入ったかのように口の中が熱く痺れているからだ。


「知ってるよ。だから泣いてんじゃん」

 真央はまた力無く笑う。

 どこか強がっているようにも見えるが、やはり心の内など見えない。兄のくせして。


「なんで好きになったの?」

「さあ?気づいたら、いつの間に。なんでだろうね?」

「なんだよ・・・それ・・・」

「言語化、必要?心なのに?」

「いいよ。大丈夫」


 大丈夫だ。

 もうある程度理解できた。


 兄妹という関係を超えて、好きになってくれたんだな?

 そして勇気を持って言ってくれたんだな?


 ごめんな気付いてやれなくて。

 兄ちゃん、やっぱり何も分かってなかったよ。

 心の内なんて全然見えてなかった。


 入れ替わりについてだって、お前達の外見ち言動の違和感で見抜いてただけだったんだ。やっぱりあれだな、もっと喋っとけば良かったよ。お前と寧々子ちゃんと。

 そっちが隠してくるとしても、勝手に外からウロチョロ調べるよりかは、もっとお前達に近づけたはずだった。「思春期だから」なんて言って距離を開けなければ良かったな。理解ある兄なんて演じなくて良かった。


 ごめん、真央。

 やっぱり兄ちゃん失格かもしれない。

 でもせめて今は兄らしい事を男としてさせてもらうよ。

 お前にとって俺は、男性としての拝堂透だとしても、やっぱり俺の中身の真髄はお前の兄の拝堂透だから。


「ごめんなさい。真央の気持ちには応えられない。俺はお前の兄ちゃんだから」

「・・・・まあ、そうだよね・・・」


 真央は俯いてしまう。

 俺はまた、何をすれば良いのかが分からなかった。


 兄としてなら失恋した妹を優しく抱きしめてあげるべきなのだろう。振った相手を殴ってあげるべきだろう。

 しかし振った相手とは俺本人の事だ。今の俺に真央を抱きしめる権利はないし、もちろんするべきではない。


 路地裏の真ん中で、俺達は立ち竦んでいる。


 数時間前までは少し距離のある兄妹で、数分前までは仲直りをした兄妹だった俺達は、もう互いの顔をどう見れば良いのかが分からなかった。


 だからこそ彼女はきたのかもしれない。

 無言になってしまった俺達を救うために。


 妹はゆっくりと顔をあげる。

 その顔は涙でぐちゃぐちゃで、そして薔薇のように紅潮していた。でもその眼差しは凛としていた。


 妹は俺に挨拶をする。


「こんにちは、拝堂君。驚かないで聞いてくださいね。鳳来寧々子です。私と貴方の妹ちゃんは入れ替わりました」


 入れ替わりが再び発生する。

 やはり彼女の心内など見えっこない。

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