第14−2話 葉は花になる
夕日に照らされて火照る彼女の髪は色なき風に揺れる。
「お待ちしてました、拝堂くん」
凛とした声で俺の方を振り返る少女の名前は、鳳来寧々子という。
そして当たり前の話だが、今日の彼女の声は、影は、脳は、心は、鳳来寧々子のものだ。
間違ってもぶりっこに猫撫で声などしなさそうな寧々子ちゃんは、俺の登場にはにかむ。彼女の癖の何か裏のありそうな微笑『不敵な笑み』ではく、しっかりとオレンジ色の背景にしっかりと映える笑顔だ。
完璧美少女様に尋ねる。
「用ってのは?」
彼女は答えた。
躊躇いなく、言葉を濁さないで、感情を寝かせないで、間髪なく言い放った。
「拝堂透くん。好きです、結婚を前提に付き合ってください」
「・・・・・え??」
耳を疑う。
そして風は水のように冷たいと言うのに、耳の中がほんのりと暖かくなってきた。
甘い音が脳内を駆け巡る。
「え・・・・?今・・・好きって言った?俺の事?」
失礼だと分かりながらも、思わず聞いてしまう。
寧々子ちゃんは、顔を真っ赤にして答える。
「恥ずかしいので、もう一回しか言いませんよ。好きです、結婚を前提に付き合ってください」
「・・・・しっかり聞き取りました・・・」
大事な事なのに、いや、大事な事だからこそ二回も言ってくれた寧々子ちゃんは、その薄茶色の髪で顔を覆う。怒っているのではなく、恥ずかしさを紛らわすためにやっているように見える。
そんな仕草にドキッとしてしまうものも、心臓のドキドキという高鳴りがそんな一音を優にかき消した。おそらく今の俺の顔も、寧々子ちゃんと同じくりんご飴のように真っ赤だろう。
「その・・・理由とかって聞いても・・・・?」
「・・・・理由?」
「なんで俺の事が好きなのかなー?って・・・・」
「告白の返事の前にですか?」
「え?普通どっちが先なの?」
「さあ?あまり慣れてないもので・・・」
「え?じゃあ・・・返事する?」
「あ!いえ!じゃあ理由を先に・・・」
あまりこういう事に慣れていない自分を恨めしく思う。こう言う時、アニメの主人公なんかはクールに、冷静に返すというのに俺達はなんと辿々しい事だろう。
同時に、寧々子ちゃんの初々しい様を嬉しく思っている自分もいた。この感情も伝えた方がいいのだろうか。
数分の沈黙と見つめ合いの後、寧々子ちゃんは語り出す。
俺の事を好きなってくれた理由を。
「拝堂くんは覚えていますか?あの文化祭の事件の日に万くんに言った事」
この前の話の続きだろう。
「ああ、覚えてるよ。『人は結局自分の50%までしか他人に見せられない・・・・』みたいなやつだろ?多分だけどどっかの漫画の受け入れだし、ノリで行った言葉だぞ」
寧々子ちゃんは頷く。
「そうですね。正確に言うと拝堂くんが言ったのは『人は結局自分の50%までしか他人に見せられない、外見という50%だ。内面を入れた100%を見せたとしても他人がそれを信じる事はそうそうない。人は物事を外見でしか判断できない。だから外見的には今回の事件の英雄はお前だ』ですね」
「よく覚えてるね。というか俺そんなこと言ったの?」
「まだ続きがあります。『・・・でもお前は被害者であり加害者だ。これは綺麗事で、結果論だけど、もっと他に方法はあったはずだ。特に俺達は未だなぜイジメが起きたかを知らない。事件の半分しか知らない。100%を理解する前に終わらせてしまった。お前は、俺達はもっと深く知るべきだった。もっと彼女の内面を知るべきだった』」
要するにあまり深く知りもしないのに、取り返しのつかない事をしたという事を伝えたかったのだろう。確かにあの事件についてはもっとやりようがあった。特に万だけが手を汚すことになってしまった事を、未だに後悔している。あいつもあいつで俺達に助けを求めてくれて良かったのに・・・・
「俺、なんか偉そうな事言ってんね・・・・恥ずか死しちゃう」
俺の言葉に寧々子ちゃんはクスッと笑う。そして肯定してくれる。
「でも、私も概ね同意、というか同じ意見なのです。やっぱり私達は互いに互いの気持ちを隠して生きてるんです。そして心のどこかでは、理解して欲しいんです」
「寧々子ちゃんも?」
彼女は頷く。微笑みながら。
「私も自分の本音を隠してますよ。本当はもっと緩く生きたいんです」
「まあ・・・それは入れ替わりを見てればなんとなく感じるよ・・・」
「えへへ。まあ、とにかく。私は人の本質を強引に見ようとしに行く拝堂くんに惹かれたんです」
「なんかヤバい奴に聞こえるけどな・・・というか俺別にそこまで分かろうとしてないよ」
「でも、入れ替わりについては調べてたらしいじゃないですか」
「そりゃ妹の・・・家族の事だからね」
「そんな人が家族だったら最高です」
あはは・・・こりゃ本気だ。
それならこっちも本気で応えなければ。
拝堂透よ、決断の時だ。
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