第14-3話 葉は花になる
寧々子ちゃんの事を好きだと聞かれても、答えは『分からない』だろう。
優柔不断、決断力がないと言われたら反論はないが、俺にとって彼女はただの『隣の席』の美少女なのだ。
いや・・・それだけじゃないか。
もうただの隣の席だけの関係じゃない。
一緒にショッピングする仲で、別れ際に頬にキスする仲で、卵焼きを作ってくれた仲で、添い寝した仲で、たまに俺の妹になるのだから。
そうなんだよな・・・俺の妹になるんだよな・・・たまに暴走しながら・・・
そう思うと、寧々子ちゃんのあの行動も、あの言動も、あの衝動的な小動物的な暴走も、俺の事を想ってやっていてくてたのだろう。
なんだろう・・・トキメイテきたぞ。
無論、妹そのもの自体が可愛いというのもあるのだが、その裏に隠された健気さというか儚さというか、その・・・顔が火照ってくる。
前まで不気味に感じていたあの入れ替わりだが、今は少しだけ可愛げというものを感じる。
あの姿こそが寧々子ちゃんの本当の姿で、本音という事なのだろう。
それを見せてくれるくらいに、俺に好意を寄せてくれたのだ。そして真央の身体を使ってでも見せてくれようとしたのだ。
一方で・・・俺はどうなんだろう。
俺は彼女に俺の全部を見せられるだろうか?
見せたいと思っているのだろうか?
文字に起こすと気持ち悪いこの上ないが、『好き』とはそういう事なのだと勝手に解釈する。
自分を見せるねぇ・・・別に隠してるつもりもないけどさ、でも全部を見せてるって訳じゃないとは思う。それこそ家族にだって本音を伝える事は少ない。それが良いか悪いかは・・・まあ、自分次第なのだろう。
とにかく。
今、俺が分かること。
それは、鳳来寧々子はめちゃんこ可愛い、それに尽きるのだ。
その長い薄茶色の髪も、その透き通るように白い肌も、パッチリとした瞳も、たまに見せる不敵な笑みも、異常な程に堅い性格も、でも本当は甘えたいという本音も、時折見せるとびきりな笑顔も、可愛いのだ。
しかしそれしか知らない。
悲しむべきは、彼女は俺の趣味嗜好性格を知ってくれているというのに、俺はほぼ知らないという事だ。
あの不敵な笑みはどうやって作られたのか、なんでそんなに潔癖な性格なのか、そして寧々子ちゃんが寧々子ちゃんの身体のまま甘えてくる時の表情も。
知らない。
そして知りたい。
なんだ・・・俺、寧々子ちゃんの事もっと知りたいと思ってるじゃん。
そうだな。
多分これが正解で、本音だ。
寧々子ちゃんは俺にもっと彼女の事を知って欲しかった。
そして俺は彼女の事をもっと知りたい。
これを『好き』という感情と呼ぶのかは知らないが、でも、ただの友達のその一つ先にいく理由としては充分だろう。
寧々子ちゃんの方に向き直る。
腹は決まった。
後は彼女の勇気に応えるだけだ。
勇気を出すだけだ。
答えよう。正直に、本音で。
呼吸を一つ。
息を吐くように、しっかりと彼女に届くように、俺は言う。
「よろしくお願いします。寧々子ちゃんの事もっと知りたいです!!」
俺の返答に、寧々子ちゃんは顔をクシャらせた。
そろそろ地面を彩り始めるだろう紅葉全てを集めても勝てないくらいに、鮮やかで、カラフルで、美しい笑顔だった。
「ふふふ、よろしくお願いします」
俺もつられて笑ってしまう。
「へへへ、なんか・・・小っ恥ずかしいな・・・」
人気の無い校舎裏。
俺達は見つめ合う。
快晴かもよく分からない程に真っ赤な空が、二人の顔に反射する。
数秒の気まずくない沈黙の後。
寧々子ちゃんは一歩一歩と距離を縮めてくる。
秋の赤い夕日の空で、青春を送る俺達は、それこそ高校生らしく、俺達らしく、熱い熱い握手を交わした。
そしてもう一度だけ笑い合った。
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