最終話 雨降ってジ・エンド

 秋の空は移り変わりが激しく、地面には灰色と紅をパステルで混ぜ合わせた粒が降り注ぐ。しかし俺と手を絡め合わせる彼女の心模様は、当分は晴れたままな事を約束する。


 下駄箱に続く廊下。

 寧々子ちゃんの手を離す。

 名残惜しそうに、糸が解けるように、するりと指から熱が消えた。


「雨・・・凄いですね・・・」


 学校の玄関、寧々子ちゃんも空に目を向けた。


「本当・・・最近雨多いよね」

「雨、嫌いですか?」

「嫌い。でも・・・愛する彼女と相合傘とかできたら好きになっちゃうかも」

「私はお迎えが来ますので、それはまたの機会で」

「そう・・・・」

「あまりシュンとしないで下さい。あとで電話しますから」

「じゃあせめて、お迎えくるまで一緒にいるよ」

「ふふ・・・ありがとうございます」


 もう少しだけ寧々子ちゃんと一緒に居られると喜んだのも束の間、その時、俺の横を人影が走り去った。


 猫のように水を嫌いながら、鞄で頭を庇いながら走る黒髪ロングのその少女は、紛れもない俺の妹だった。


「真央!」


 反射的に叫ぶ。しかし真央は止まらない。

 もう追いかけるしかない。

 しかしやはり人生はそう上手く行かないようだ。

 鞄の中に傘はなかった。


「どうしました・・・?」

「傘、忘れた」

「ええ〜・・・」

「しゃーない。走ります!!」

「いやいや、風邪を引きますよ。ほら私の傘使って良いですから」


 寧々子ちゃんは鞄からピンクの折り畳み傘を取り出して俺に差し出す。


「ありがとう!!」

「頑張れ、おにーちゃん!!」


 寧々子ちゃんの応援を背に、俺は走る。


 妹の肩を掴む。

 真央はビクッと身体を揺らし振り返る。

 振り返った真央は頭から足先までびしょびしょに濡らしている。もちろん顔も。


「その・・・昨日の件なんだけど」


 真央は揺れる。目は泳いでいる。


「ああ、あれね!忘れて!本当に!!なんでもないから・・・一時のノリ?みたいな?よくよく考えたら本当にキモい話だし・・・」


 ノリ?違うだろ!?もう隠さないでくれ。俺も本音伝えるから。


「俺も好きだった!」

「・・は?」


 俺の叫びに真央は目を丸くさせる。

 最後に俺にもう一度叫ばさせてくれ。


「俺も真央の事好きだった。それこそ妹でも、結婚したいくらいに!でも・・・すみません!他に好きな人ができちゃいました!完璧で可愛い同級生に恋しちゃいました!だから、真央の気持ちには答えられません!!」


 愛の告白。

 数秒の沈黙。


 真央は吹き出す。


「ハハッ・・・なにそれ!?」


 堪え切れずに漏れた笑い声と涙が、雨中に光る。


「ハッ・・・ハハ・・アハハ、ハハハ〜!!」

「そんなに笑う?」

「ハハッ・・・ごめんごめん。あ〜・・・なんかスッキリした。そうか、そうか・・・ちゃんと真っ当にあの完璧お嬢様に負けるんなら、文句はないよ」


 まるで憑き物が落ちたように、俺達の付き合いを認めてくれたのか、真央は正真正銘、俺の大好きな笑顔を見せてくれる。


 そして半ば俺を押し出すように、ピンクの傘の中に身体を入れて来た。傘の柄を掴む俺の腕に絡みついて、イタズラな笑顔を向けてきた。


「「これからもよろしくね、おにーちゃん!!」」


 ゴロゴロと鳴る雷など聞こえない。

 二つの大好きな声が耳に嬉しい。

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完璧お嬢様が俺の妹の体に入ってデレてくる Shutin @shutaiwa

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