第6ー2話 兄心は親心よりも妹に理解されない
耳を疑う。
ワコちゃんは鳳来と真央の入れ替わりを知っている?
嘘だろ。俺以外に知ってる奴がいるとは・・・・
いつからだ?そしてどうやって?
いや、それは今はどうでもいい。問題はなぜ彼女が今、俺にそれを伝えて来たかが重要だ。
「うふふ・・・叫ぶマーモットさんのような顔ですね。そんなに驚きましたか?」
「だって・・・どうやって?」
「ふふ。これを知ってる人は少ないのですが、私と寧々子ちゃんはいわゆる幼馴染と言う奴なんです。だからすぐに気づきましたよ」
「そうだったのか・・・他に知ってる奴は?」
「私の知る限りでは一人だけ。私はその方と共にあの二人の入れ替わり生活を影ながらサポートしているんです」
「誰だ?」
「それは・・・言えないんですよ〜すみませ〜ん」
ワコちゃんは両手を合わせ、テヘッと舌を出す。
この方の恐ろしい所はこういう事をなんの疑問もなく行うところだ。
その無限の包容力とたまに見える天真爛漫な所作、そして何とも言えぬ話やすさから生出ワコは恐らく学校一モテる。
鳳来寧々子が高嶺に凛と咲く一輪の花だとしたら、ワコちゃんは綿毛をいっぱいにつけた野原で愛られるタンポポのような存在だ。
でも俺は真央の事が一番好きだから、安心して欲しい。
ワコちゃんは本題へと戻る。
「それでなんですけどね〜・・・今日、透くんを呼んだ理由なんですけど〜」
「ああ、そうだった」
「あの〜・・・・その〜・・・」
ワコちゃんは言い渋る。指をモジモジ絡み合わせながら頬を紅潮させるのをやめて欲しい。もし学校の誰かに見られたら面倒だ。
「早く言ってくれ」
「今日のお昼ご飯にその・・・入れ替わりの時の写真を寧々子ちゃん、というか真央ちゃんに見せてましたよね?」
「ん・・・ああ見てたのか?」
「ええ、失礼ながら。それでその・・・その画像を頂いても良いですか?」
「画像?良いけど、なんで?」
「そりゃ〜理由は・・・うふふ、分かるでしょ?」
皆まで言わせるな、察せ、といわんばかりの眼差しで、グランドシスターはニコリと笑う。父が俺に真央の幼稚園時代のアルバムの在処を俺に聞いてきた時の表情にそっくりだ。
なるほど・・・完璧に理解したぞ。
ワコちゃんは入れ替わりについて知っている。それなのに2人の目を気にして俺に会いに来たというところが引っかかっていた。
特に今日の鳳来の中身は真央なのだから。
お主、
幼馴染なんて突き詰めれば兄弟、姉妹みたいなものだ。
ワコちゃんの性格から考えると、彼女が姉、鳳来が妹だろう。幼馴染でも妹がいたらゾッコンになるのは避けられない。
俺が妹用の画像フォルダ『マオコレクション』を作ってるように。きっとワコちゃんにも『鳳来フォルダ』があるに違いない。
あれ・・・?
しかしワコちゃんが今ほしがっている画像は真央の姿見をした鳳来だぞ?
鳳来ラブなら、それで良いのか・・・?
は!!まさか・・・・鳳来ラブじゃなくて真央ラブだったり!?
そうなると俺とライバルじゃないか・・・?
いやでもしかし、俺は中身が真央なら例え外見が鳳来でも愛せるぞ。
「あの〜ひとつだけ聞いても良いですか・・・?」
「あら、何です?」
「ワコちゃんは鳳来の事どれくらい好きですか!?」
「・・・・・?相変わらず拝堂くんは面白いですね・・・」
ああ、分かってるよ。
俺も言いながらもう後悔している。
でもこの質問は必要なんだ。
俺は同担拒否ではないが、これだけはハッキリさせておきたい。
ワコちゃんよ、君が画像を欲しがる理由は外見の真央か、中身の鳳来か?
目を閉じながらコーヒーを一口だけ含み、ワコちゃんはそれを口の中に浸透させる。コクン、と音が静寂を切った後、ワコちゃんの静かな落ち着いた、まるで子守唄のような声が響いた。
「愛しています」
そうかい・・・・それならば何も言うまい。
俺はワコちゃんと連絡先を交換し、『真央にゃんと寧々子にゃん』という共有フォルダを作成した。
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