第6話 兄心は親心よりも妹に理解されない
決して理解されないと思っていた、『妹を助けたい』という兄心が報われた嬉しさで思わずスキップしてしまう。妹からの呼び出しに、俺は駅前のカフェを訪れた。
カランカランと鐘の音を鳴らすと、コーヒー豆と焼いたトーストの匂いが鼻をくすぐった。喫茶店とはまた違った海外レトロ風な本棚と照明が綺麗だ。
鳳来の姿をした真央を探す。
さて・・・お嬢様はどこだ・・?
こんな手紙を寄越して俺を呼び出すとは、真央もいじらしいところがある。
カフェの中には客が数人。しかし遠目からでも目立つ彼女の薄茶色の綺麗な髪は見当たらない。その代わりどこか見覚えのある、フワッと柔らかめのボブが良く似合う俺のクラスメイトを見つける。見つけてしまった。
まさかあれって・・・・??
間違いない!
ヤバイ。俺と鳳来が密会なんてしているのを見られたら不審に思われる。
クラスで話題になってしまう。
鳳来とは言っても中身は妹なんだし、日を改めよう。
手紙の事は忘れて家に帰ろうとしたその瞬間。伸ばしてもいない後ろ髪を引かれて捕まった。
「あら〜?どこに行こうと言うんのですか?透くん?」
「これはこれは・・・生出ワコさん。ついさっきぶりで」
「私の事はワコちゃんと呼んでくださいな」
ワコちゃんは目を細めてニコリと笑う。鳳来寧々子とはまた違った、落ち着きのある空気を醸し出す彼女の目の奥から放たれる光の影響か、自然と身体がワコちゃんの前の席に座る。
「もしかして・・・あの手紙ってワコちゃんが?」
「はい」
生出ワコは俺と同じクラスで、いかにも成績表のコメントに「落ち着きと包容力のある、皆をまとめられる生徒」と書かれそうな大人びた少女だ。
それを裏付けるかのようにワコちゃんは年の離れた姉のような無限の包容力を発揮し、学年関係なく全生徒達に敬われ慕われている。密かに結成された『生出ワコファンクラブ』は彼女の事を親しみを込めて『グランドシスター』と呼ぶ。
ある意味鳳来とは正反対のような性格かもしれない。
あの手紙はお嬢様からじゃなかったのか。
それでワコちゃんが俺になんのようだ?
もしかして・・・告白か?ついに来たか?
いや、しかし告白だとすると場所がおかしくないか?
学校から離れるのも疑問だし、他の生徒達の目を気にするならこんな駅前のカフェなど選ぶか?
この人もこの人でなに考えてるのかわかんないからな・・・良い人なのは確かなんだろうけど。
「で?どうしたのワコちゃん?俺になんのよう?学校で出来ない話なら場所を変えようぜ、ここはたまにうちの生徒がくる」
「いえ、大丈夫です。私も透くんもあまり遅くなってはいけませんから。ここら辺がちょうど良かったのです」
「何?別に人目は気にしないの?」
「そうですね・・・強いて言うならたった二人程は気にしないといけないんですけど、学校外なら大丈夫でしょう」
「二人・・・ってまさか・・・」
「はい。寧々子ちゃんと透くんの妹さん、真央ちゃんです」
俺は今どんな表情をしているだろう。
うふふ、とコーヒーを啜りながらワコちゃんは、嬉しそうだ。
まるで姉が弟のヤンチャを見ているかのような優しい笑顔だった。
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