第3-3話 霹靂とは青い空を見ていたからこそ気づける

 しかし月曜日、真央の中身はまた別の誰かになっていた。


 俺は平静を装いながら、真央の中身が誰なのかを調べる事にした。真央に直接聞いても躱されるのがオチだから、証拠を集める事にした。


 今のところ分かっている『真央が真央でなかった時』は木曜日。それ以外は普通。

 木曜の朝は会話していなかったので分からないが、1日中ずっと乗っ取られてたかもしれない。


 少なくとも木曜日の夜、午後5時から12時の7時間は乗っとられていた事は確実だ。それについて俺は不思議に思うことがあった。


 その7時間、真央は真央のスマホを持っていた。当たり前の事を言っているが、中身が違うのならおかしな話だ。中身が違うなら、外見は同じでも違う人のスマホを使う事になる。そして手元に自分のスマホが無くなる。


 人のスマホを使って一日過ごすのだ。


 俺は思う。この現代社会に生きる高校生が7時間もの長い間、自分のスマホ無しで生きられるだろうか?しかも真央のフリをする奴は、俺の部屋にいる時真央のスマホを使って誰かにメッセージを送っていた。音で分かる。


 真央でない奴が真央のスマホで真央としてメッセージを送る・・・なんかややこしいリンカーンみたいだな。


 まあ、そんな事は置いておいて。果たしてそんな器用な事がでるだろうかのか?出来るとすれば、その中身の奴が真央の記憶をある程度把握している事になる。しかし本物の真央の勉強している範囲を知らないとなると、記憶は受け継いでいない。


 それならどうやって真央のスマホでSNSを使うか?

 簡単だ。真央としてメッセージをしなければ良い。真央のスマホで、自分自身としてメッセージをすれば良い。


 つまり同端末でのアカウント切り替えだ。


 真央のフリをする奴が、真央のスマホから自身のSNSアカウントにログインすれば良いのだ。スマホなんて所詮はただの器。中のデータを弄れば誰にでもなれる。


 さて・・・・簡単なのは真央のスマホに入っているアカウント情報を入手する事だが。それは無理だろうな・・・・・


 まずは真央が本当に入れ替わっているかを確認しないと。SNSを使って真央のスマホに電話をする。俺の部屋に遊びに来ている真央のスマホは揺れない。


 しかし数秒後、真央は焦ったようにこちらを見て一言。


「・・・・おにーちゃん。今電話した?」

「うん・・・したよ。スマホ鳴った?」

「ああ、うん!でもなんで電話?同じ部屋にいたのに?」

「妹の声が恋しくて・・・」

「もう〜・・・ほらこっち来て。おしゃべりしよう?」


 ここで俺はある事に気付いた。真央とこの真央のフリをしている奴は繋がっている事実にだ。


 真央の反応を見るに、今俺から電話を貰った真央が、慌てて目の前にいる真央のフリをしている奴にそれを知らせたのだ・・・・と言うことは真央が誰かに身体を乗っ取っている間、真央は逆にその誰かの身体の中にいる事もほぼ確実だ。


 どこかで別の身体に入っている真央が、その誰かのスマホで真央のアカウントに入って、俺から電話を受けたと言う事だ。


 もっと考えると真央と真央の中身は互いに連絡ができるということだ。SNS上でフレンドという事。なら真央のアカウントのフレンドリストに真央の中身がいる。


 ここまで来たならかなり絞り込める。

 まず親族は除外。

 俺の宿題の内容を知っていたから真央の同級生でも無いと思う。

 絞った結果、めぼしいアカウントは12個。

 その内7個は誰のアカウントか特定できず、5個は俺のクラスメイトだった。


 そして運命の日、火曜日。

 俺は本格的に真央の中身を調べ始めた。少し一線を越えたのだ。

 隣のクラスのヨロズ知義ヨシカズにある依頼をした。万は通称『情報屋』あらゆる情報に精通しているパソコンオタクだ。


 同時に俺は5人のクラスメイトにそれとなくカマをかけてみたが、怪しい人物はいなかった。もし嘘をつくのが上手い人物ならヤバかったが、その不安は万の報告に消える事になる。


 万は特定を一晩でやってくれました。


 7個の内、1個はボット。4個は真央の学年の女子の裏アカ。1個は真央自身の裏アカ。そして1個はなんと、俺の同級生のものだった。


 アカウント名『@reverse_cat0923』


 アカウントの主は鳳来寧々子。俺の通う俊秀高等学校一の美少女であり、日本有数のお嬢様だ。学校で彼女のSNSを知る者はいない。そもそもお嬢様は、家の都合とかでスマホを持っていないと皆に説明していた。


 どうやって万が彼女を特定したのかは教えてくれなかった。その代わり真央の裏アカのフレンドリストにも@reverse_cat0923がいる事を教えてくれた。


 真央と鳳来は繋がっている。それは真央の中身が鳳来だと疑うには充分な事実だった。


 だからその日の夜。俺は妹に聞いてみる事にしたのだ。俺の妹の姿見をするそいつに。


「なあ・・・お前、鳳来だろ?」

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