第7-2話 トラのヌイグルミに埋もれて虎子を得る
おい。それはダメだろ。
それは超えちゃイケナイ一線のはずだ。
もしこの場面を父に見られたら、あのトラの野球団の助っ人外国人ばりのフルスイングで、尻をバットでしばかれるに違いない。もしかしたらそのまま尻の穴にバットを入れられて、奥歯を失うかもしれない。
「お、おかえりなさい!」
流石に彼女も恥じらいを持っているらしい。
声を上擦らせながら顔を真っ赤にさせて俺を出迎える。
真っ赤というより、ピンクだ。以前、妹のために訪れたランジェリーショップに陳列されていた、甘ったるいローズピンクのブラの様に真っピンクだ。
そして真央の身体に入っている、お前。
お前だよ、鳳来寧々子。まさか君の脳内もそこまで真っピンクだとは思わなかった。
両手に携えたエコバックを玄関に落とし、すぐに扉を閉める。
薄っぺらいエプロン一枚だけをかけ、ほぼ裸同然の様に素肌を晒す妹の身体を守るためだ。
「なななな、なあにやってんのお〜????」
「えへへ・・・サービスサービス・・・」
「バカぁ!!そんな、なんで?え???」
狼狽する俺に追い打ちをかけるように妹はそっと近づいてくる。そしてまるで素肌とエプロンの間にできた空間を見せつけてくるように屈んでくる。
すぐさまギュッと目を瞑る。反射的に顔をあさっての方向に向かせる。
暗闇に身を投じたからだろうか。ガサゴソと何かを漁る音の後に、ふぅっと生暖かい妹の囁きが耳をくすぐってくる。
「あ。私の大好きな桃のゼリーじゃん。ありがとうね・・・・おにーちゃん」
「・・・・いえ・・・どういたしまして」
なんだろう?
今日の妹、真央の中の鳳来はどこかオトナっぽい。
俺の勝手な想像だと、普段の高嶺の花な鳳来っぽい色気の出し方だ。
あの俺にベッタリなデレデレとは少し違う。
しかし今はそんな些細な変化はどうでも良い。まずはこの真央の素肌を晒す、鳳来の暴走を止めないと。
「まず・・・服を着なさい。風邪を引く」
「え〜?心配してくれるの?」
「そりゃ、心配するだろ。なに?何事?悩み事?」
「違うよ〜。サービスっていってんじゃ〜ん。いつも頑張ってるお兄ちゃんに」
「・・・・・」
ああ、やはり分からない。
鳳来よ。君は何がしたいんだ?
何を思ってそれをするんだ?
「ほら、ハグも、おいで・・・」
両手を目一杯に広げ瞼を閉じる妹に、さらに思考がフリーズする。
普段なら絶対に妹にハグを拒否などしないが、流石にその裸同然の格好は事案になってしまう。さらに中身は妹でないから尚更だ。
俺にできることはひとつだけ。
まず買った物を冷蔵庫にしまう。
そして隙をついて制服のブレザーを妹にかける。
もう十数年も前の話だが、兄として妹の着替えを手伝った記憶が蘇る。
すんなりと妹は俺のブレザーを受け入れ、肌の露出が抑えられる。
ふぅ・・・とりあえずはこんなところか・・・・
しかし鳳来の暴走がここまできているとは。説教が必要だが、勢い余って秘密を漏らさないように気をつけねば・・・・
妹の方に向き直し、お説教を始めようとするが、やはり妹の中身の完璧お嬢様の方が一枚上手のようだ。
羽織らせたブレザーに鼻を押し付け、同時に袖の部分をハムハムしている。
「スンスン。これが兄貴の匂いかぁ・・・・ハムハム。味は普通だな・・・」
「何してんのぉ??もう!返しなさい!ああでも、やっぱり羽織ってなさい」
裸エプロンを許すか、制服の匂いを嗅がれるかで葛藤をしないといけないとは不幸な事だ。
そんな俺を面白がるように、説教から逃れるように妹は部屋に入り、俺を締め出す。俺のブレザーを持ったまま。
やろうと思えば部屋の鍵を開けることもできたが、流石にそれは兄として超えちゃいけない一線だと思って日和ってしまった。
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