第7-3話 トラのヌイグルミに埋もれて虎子を得る
薄暗い部屋の中。鍵がかかるドアをさらに支えるように、裸の上にエプロンをさらにその上に透のブレザーを羽織る拝堂真央は、ペタン、とドアに背を向けて座り込んだ。
下腹部から津波の様に押し寄せる、恥ずかしさと興奮が漏れないように必死に口を抑える。兄のブレザーを口にあてながら。
ああ・・・・やっちゃった!やっちゃった!やってやっちゃったよぉおお!!
兄貴に裸エプロンなんて・・・・本当に寧々ちゃんはこんな事してんの!?
恥ずかしくて死にそうだよ!!
でも・・・・兄貴の奴、見るからに目のやり場に困ってたな・・・・
私の体でも興奮したりするんだ・・・
でもあの格好でハグはやりすぎだったかな?
痴女って思われたかな?
自分の行動を振り返って真央はまた顔を真っ赤にさせる。
しかしもうやってしまった物を後悔しても遅いと自分に言い聞かせ、体温と呼吸を整えて、スマホを手に取る。協力者に報告をするため。
スマホを開けると、その協力者から『裸エプロン作戦』の効果の程を尋ねられていた事に気付く。
『どうだった?透くんはお触りしちゃったかな?』
そのどこか上からな、母親のような年の離れた姉のような質問の仕方に、あの万人に受けそうな聖母の様な笑顔が真央の脳内によぎる。
『大丈夫だった。兄貴は思ったほどヘンタイじゃなかった。寧々子ちゃんが私の身体に入ってる時も変な事はしてないと思う』
そう。真央はあくまで実験をしていたのだった。
鳳来寧々子が真央の身体に入っている間の奇行は、もはや周知の事実。しかしど彼女がどこまでやって、透がどこまで許しているかは、当の本人達しか知らなかった。
だから真央は試したのだ。
自分の身体を使い自分のフリをする鳳来寧々子のフリをして、透を試したのだった。
あくまで、実験だ。
そう真央は自分に言い聞かせる。
顔の中の薔薇も、もう引いた。
しかし作戦を手引きしていた、黒幕、ワコちゃんこと生出ワコの返信にまた顔を真っ赤にさせる。
『え?本当に裸エプロンやったの?』
『え?あ、当たり前でしょ!?兄貴が寧々子ちゃんにセクハラしてたらどうすんの?身体の主は私だし!』
『あら〜。まさか本当にそこまでやるとは・・・ナイスガッツって言えば良いのかな・・?』
『何よそれ?ワコちゃんの発案でしょ?兄貴を誘惑してみれば、私の身体と貞操の無事がわかるって』
『裸エプロンは冗談だったんだけど・・・まずは普通にハグとかそこくらいから始めると思ってたわ』
『ハグなんて、兄妹なら普通にするでしょ!?』
『するの?』
『いや・・・私と兄貴はそんなんじゃないけど・・・』
『じゃあ・・・キス、とか?』
「そんな事、できるわけないじゃん!!」
部屋の外には聞こえない程の悲鳴で、真央はスマホをぶん投げる。
綺麗な弧を描いたスマホは幸いな事に、ベッドの上にポフッと着地する。
少し間を置いてスマホを取りに行く真央の目には、ベッドの上に横たわるシャチのヌイグルミが目に入る。それは真央がまだ思春期に入る前に、透に素直に接せられた時期に貰ったプレゼントだった。
真央はおもむろにそのシャチを両手で抱き抱え、縁側で眠る猫のように身体を丸める。
「キスなんてできるわけないじゃん・・・だって・・・兄と妹だよ・・・」
その猫背のまま、素肌にエプロンとブレザーだけを羽織った格好のまま、大きなため息を一つだけ吐き、真央は目を瞑った。
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