第7-4話 トラのヌイグルミに埋もれて虎子を得る

「うふふ・・・やっぱり可愛い」

「どうしたんです?」


 スマホを見ながら目を細め、口角を上げるワコちゃんを、鳳来寧々子は不思議そうに見つめる。


 なぜ自分がトラのヌイグルミ・・・・ムッシュ・タイガーに抱えられる様に座っているのか。なぜ自分の服と薄茶色の髪が乱れているのかを不思議に思いながら、久々の自身の身体で大きく伸びをする。


「それで・・・今回の入れ替わりはどうだった?」

「・・・別に?なんともありませんよ?」

「そういえば・・・今日の透くんの弁当は少し感じが違ったな〜」

「へえ〜そうなんですか・・・・」

「透くん美味しい美味しいってみんなに自慢してて困ったんだよ〜」

「・・・全く・・拝堂君は・・・」


 無機質に回答をしながら、寧々子はニマニマと幸せそうだ。

 そんな寧々子を見て、ワコちゃんの姉心がくすぐられる。


「ああ〜!もう!!寧々子ちゃんは可愛いな〜!!」

「ちょっと!くっつかないでって、いつも言ってるじゃないですか!!」

「だって〜可愛いから〜」

「ベタベタするのは嫌いです」

「うふふ・・・はいはい」

「はい、一回です」


 寧々子に押しのけられたワコちゃんは、再びスマホを気にする。

 しかし透にキスをする事を提案してから、真央の返信はない。


 きっと今頃ベッドに真っ赤な顔を埋めて悶々としてるに違いない、とワコちゃんは勝手に想像する。


「なんですか?スマホを見ながらニヤニヤして・・・気持ち悪い」

「ん〜?・・・うふふ、ちょっとね。進展?させてみた」

「はあ・・・」


 意味の分からないワコちゃんの発言に、寧々子は間の抜けた返事しかできない。そのまま寧々子は大きな欠伸をする。肉体的には違うが、今朝は早起きをしたからだ。


 しかしワコちゃんの発言にすぐに目を覚ます事になる。


「寧々子ちゃんの方の進展は?透くんとのシ・ン・テ・ン・・・」

「ななな、何を聞くんですか!?良いですか?男女の関係はもっとデリケートに聞くべきで・・・」

「はいはい。まあ好きな事を否定しないだけで前よりかは成長したのかな?」

「・・・・はいは一回です」

「うふふ・・・そんなに好きならもっとグイグイ行けば良いのに」

「無理です・・・皆に好かれるワコちゃんの様にはいかないんです。学校でもまだ皆に距離を置かれてるんですよ」

「それは寧々子ちゃんが可愛すぎるから近寄るのが恐れ多いんだよ。あと寧々子ちゃんは堅すぎるんだって〜」

「うっ!それは・・・」


 図星を疲れたように狼狽する寧々子の事を、ワコちゃんは少しだけ不憫に思う。その生まれつきの堅い性格から、昔から寧々子は人と打ち解けられる事が少ない。幼馴染であるワコちゃんにも敬語を使うくらいだ。


「まあでも、お姉ちゃんは寧々子ちゃんの一人の力で友達を作るっていう目標を応戦してるから、言われた通り学校では幼馴染って言わないからね」

「無論です。私はしっかり鳳来寧々子として友達を作って見せます」

「頑張れ寧々子ちゃん!・・・ついでに透くんの方も頑張れ!!」

「う!それは・・・トオル・・・コホン。拝堂くんとの事は、徐々に、という事で」

「そんなんじゃ他の子に奪われちゃうよ〜」

「え?誰ですか?」

「さあ〜???」


 姉は妹をいじめたくなるものだ、というのを裏付けるかのように、ワコちゃんはニンマリとイタズラに笑う。このたまに見せる家をぐちゃぐちゃにしたシバ犬が悪びれもせずに飼い主に見せるような、どこか憎めない笑顔も、全校生徒をワコちゃんの虜にさせる理由だ。


 からかいに機嫌を悪くする寧々子に、ワコちゃんは強引に話題を変える。変えた、というより純粋に寧々子に聞いてみたい質問でもあった。


「寧々子ちゃんはさ・・・その・・・真央ちゃんの身体に入ってる時に、透くんにアタックしたりしないの・・・・?」

「・・・・?アタックとは?」

「男女の仲を深める的な・・・」

「するわけないじゃないですか。あっちは入れ替わりについて知らないんですよ。透くんからしたら、私が中に入っていようと妹です。私はあくまで真央ちゃんとして、透くんと仲良くしてるだけです」

「一緒にお風呂に入ったり」

「しません!一応は真央ちゃんの身体なんです。そういう線引きはしてます」

「でも、入れ替わりにあやかってイチャイチャしてるんでしょ?」

「それは・・・言い方が悪いです!スキンシップです!あくまで入れ替わりがバレないように、仲良くしてるだけです」

「ふ〜ん。そうなんだぁ〜」


 またまた含みのあるようなワコちゃんの相槌に寧々子は頬を膨らませる。

 同時にワコちゃんは全く別の事を考えていた。

 別、というか、逆。

 やはり寧々子は寧々子のまま透と仲良くなって欲しいという姉心おせっかいを原動力に、次の作戦を考える。


「あ、良い事おもいついた!!」

「どうしたんですか?急に?」

「うん、そうだね、これでいこう!!明日、透くんを誘ってショッピングに行くよ!」

「え!?何がどうなってそうなったんですか!?」

「それは後で教える!!」


 それだけ言い、ワコちゃんは寧々子の部屋から飛び出す。この見た目からは想像できない活発さも彼女が好かれる理由だ。


 ワコちゃんは急いである者の家に向かい、寧々子と透を近づけるプランを練る。


 真央が透の変態度を測るために、同時にワコちゃんが真央の秘めたる心内を揺さぶるための『裸エプロン作戦』と対をなすような作戦。


 モコモコの部屋着に着替え、寝っ転がりながら唸るワコちゃんは協力を要請する。

 入れ替わりを知るもうひとりの人物に。


「物知りハカセの、バンちゃ〜ん。こんな作戦はどうかな?」


『作戦ノート』と綴られたそれを見せられた男子高校生は、ヘッドホンを耳から外し面倒くさそうにぼやく。


「良いんじゃねーの?あとバンじゃねぇから、ヨロズだから」

「手伝ってよー。イトコでしょ?」

「メンドクセー・・・・って言いたいところだけど、情報屋の俺にとってはこれほど面白いもんもないな。ちょっと貸してみろ」


 そう万知義はノートをひったくって、ワコちゃんのやりたい事を分かりやすくパソコン上で図解にする。


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<寧々子ちゃんと透くん仲良し作戦>


目標:寧々子と透を二人きりにさせて仲を深めさせる。


前提:透の妹の誕プレを考えるの助ける事を口実に、透とショッピングに行く。(情報によると透はピンクのパジャマを買うつもり)


場所:ショッピングモール


したい事:・寧々子と透にショッピングを楽しんでもらう

     ・さりげなく寧々子の誕生日も近い事を伝える

     ・寧々子の誕プレも考えてもらう

     ・ある程度になったらワコが姿を消し、二人きりにする

     

注意:透が入れ替わりに気づいている事を寧々子に気づかれてはいけない

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「鳳来は、知り合いに見られたくないんだろ?」

「うん」


 万は他の生徒が訪れないであろうショッピングモールを、生徒の住所と照らし合わしながら考える。次に見つけたショッピングモールのマップと、ウェブ検索で探した『ショッピングデートの歩き方』を照らし合わせながら、ルートを構築していく。


「ここをこう行って、お前がさっとこっちの店に消えれば、二人きりになるはずだ。しかもここから二人を観察する事もできる。どうだ?」

「完璧」

「作戦名もダサいな。そうだな・・・じゃあ口実から名前を取って・・・」


 こうして、寧々子が寧々子のまま透とゴールインするための作戦『ローズピンクパジャマ作戦』が、『グランドシスター』こと生出ワコと『情報屋』万知義によって計画された。

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