第2−2話 棘があるから薔薇は愛でやすい

「はい、ただいまー。今日の晩御飯は回鍋肉ホイコーロですよっと・・・・って誰もいない?」


 学校帰りに買い物をして帰ってきたが、家には誰もいない。父親は海外、母は仕事で夜遅くまで忙しいので分かるが、同じ高校に通う真央が居ないのはおかしい。


 あいつ部活にも入ってないはずだから、この時間には帰ってるはずだけどな・・・・遊び歩いてんのか?


 不可解に思っていると、制服姿の真央がキッチンに歩いてきた。


「真央・・・・やっぱりいたのか。お兄ちゃんが帰ってきたら、ただいまくらい言おうよ〜」

「・・・・・・」


 返事は無い。そのまま無言でコップに麦茶を注ぎ、また部屋へと戻ろうとする。

 あれ?俺、死んだ?と思うほどに無視された。


「無視はよく無いですよー真央さん。というか家に帰ったら部屋着に着替えなさい」

「・・・・ウザッ。死ね」


 不在の母の代わりに注意するも、たったの二語で蹴散らされる。しかしその刺々しい罵倒も俺には効かない。なぜならお兄ちゃんだから。


 まったく・・・・生意気な奴だ。

 今日の真央の中身は、正真正銘の真央のようだ。


 そう、俺の妹ちゃんの真の姿はこんな感じなのだ。思春期真っ只中。母親としかまともに話さない。兄と父は嫌悪の対象。


 そんなところがかわいいんだけどねー。今日は会話できただけでもラッキーだったな。パッと宿題して、ご飯を作っちゃいましょー。


 食材を冷蔵庫に入れていると、部屋着に着替えた妹が横に立っている事に気づいた。どこで買ってきたのか大人っぽいグレーの部屋着、否、『ルームウェア』を着こなしている。


 珍しい。いつもは俺がリビングにいる時は部屋にこもっているのに・・・・・


「あんた。言ってないよね?」

「・・・・何を?」

「寧々子ちゃんに。私達の入れ替わりにあんたが気付いたって事」

「もちろん」

「そう・・・・全くあんたが気付かなければ全部上手く行ってたのに。ストーカーみたいな真似して、本当に気持ち悪い」


 ゴミを見るような目で真央は嫌悪感を募らせる。そんな目に負けずに俺は聞いてみる事にした。鳳来が、真央の身体で俺にデレてくる理由を。もちろん、遠回しに。


「なあ・・・・鳳来は、寧々子ちゃんはどう思ってるんだ?入れ替わりの事に?アイツの入れ替わり時のキャラ?性格?が普段と違いすぎる。アイツ何か悩み事があるんじゃないか?それが入れ替わりの原因だったりして・・・・」


 あのお嬢様の真意を知っているとすれば、入れ替わっている真央しかいない。

 しかし俺の質問に真央は答える気もなく、そそくさと自分の部屋へと戻って行ってしまった。


 それにしても『ストーカーみたいな真似』ねえ・・・・・

 妹の身体を心配しての行動なのに。やっぱりあれはやり過ぎたか?


 事の経緯を思い出す。

 それは2週間程前まで遡った話だ。

 俺が、真央と鳳来の入れ替わりに気づくまでの話だ。

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