第13話 意味のある猿真似にオチを求めてはいけない
「
カジュアルに、陽気に、フレンチに、学校帰りの真央を玄関で迎える。しかしふざけた挨拶に太陽のように眩しい笑顔を返す妹に、俺のテンションはガタ落ちする。
今日の真央の中身は寧々子ちゃんらしいからだ。多分。おそらく。まだ分からないけど。しかし出会い頭に舌打ちをsれないのならそういう事だろう。
俺にはハッキリさせておきたい事があった。
しかしそれは正真正銘の真央としか話せない事だ。
やはり考えた結果、あの日、買い物に行った際に俺の頬にキスをしてきた寧々子ちゃんの中身は寧々子ちゃんでない可能性が高い。そもそも彼女があんな事をするとは思えないし、そして何よりその記憶がないのがおかしい。
万も言ってた通り、入れ替わり中の記憶は中身に引き継がれる。
寧々子ちゃんの記憶がないのは、中身が寧々子ちゃんでなかったからだろう。
多分、おそらく、というか確実に、あの時の寧々子ちゃんの中身は真央だった。
それなら全て説明がつく。
そしてここで新たな問題が生まれる。それは俺自身がやはり二人の入れ替わりのタイミングを完璧に把握できていない事から生まれた疑問だ。
もしかすると、見誤っていた日があるのかもしれない。
中身と外見が一致しているのに、入れ替わりが発生していると思い込んでいた日があるかもしれない。そう思わされていた日があるかもしれない。
もしかしたら、あの時の、あの日の寧々子ちゃんは、寧々子ちゃんのフリをした真央のふりをした寧々子ちゃんだったかもしれない。
こんな想像はしたくないが、あの誕生日の日、一緒に風呂に入った妹は、正真正銘の真央だったのかもしれない。真央のフリをする寧々子ちゃんのフリをした真央だったのかもしれない。
もし仮に、真央が定期的にフリのフリをしているとしたら、その真意はなんなのだろうか?
余程真剣に妹の事を見ていたのだろう。
そんな俺を見て、真央はにへへと不思議そうに笑う
「お兄ちゃんどうしたの〜?」
「いや・・・なんでも・・・」
「なにそれ。ちょっと待っててね。着替えてくる」
そう言って、妹は俺の横を素通りする。
玄関に揃えられてない靴を見つける。
あ・・・・・。
目の前にいる妹は、正真正銘の真央だという事を確信する。些細な事だが、間違いない。あの完璧お嬢様なら絶対に靴を揃える。そう信じている。
今の真央は、フリのフリをする我が妹だ。
俺は、着替えのために部屋に行こうとする真央の腕を咄嗟に掴んでしまう。真央だと確信している今のうちに、ケリをつけたかった。一回あの扉を潜らせたら、もう彼女が正真正銘の真央かが分からないから。
腕を掴まれた真央は肩をビクッと揺らしながら、振り返る。困惑の表情を浮かべながら、はにかむ。普段の真央なら、俺の知ってる真央なら、睨みを効かせて振り払うはずなのに。
「・・・どうしたの?今日、変だよ?」
変なのはお前だよ、という言葉を飲み込んで、俺は言う。
「お前・・・真央だろ?」
真央の姿見をした真央にこんな事を聞くのは滑稽だろう。見たまんまの事を言っただけだ。「なにそれ?当然じゃん」と返されるのがオチだ。
しかしこんな言葉たらずに、真央は反応を見せる。言葉の意味を理解する。自分が自分であると言及された事に動揺を見せる。
雷に撃たれたように目を見開いて硬直する。雨に打たれた後のように、顔を青くする。さっきまでの太陽の様に明るい笑顔が曇る。
消え入る様な震えた声で、真央は言う。
「いつから・・・・気づいて・・・・」
「確信はなかった。でもおかしいとは思ってた」
「・・・・そう・・・なんだ」
俺の返答に真央は俯いた。
後悔しているのだろうか、はぐらかそうとすれば出来たはずなのにしなかった事を。それとも覚悟しているのだろうか、俺の次の質問に。
すると俺の背後で何か音がする。
今日はオフで家にいる母が起きてきたようだ。
今からする話は、母には聞かせられない。
俺はそのまま真央の手を取って、玄関から飛び出す。
外は雲ひとつない快晴だった。天気予報でも、今日は雨は降らないと言っていた。
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