《雑貨店のレジには一度も立ったことがない》小春視点
第27話 神楽雑貨店、営業停止
「へ?営業を一時停止…?」
「そうなの!神楽雑貨店に謎の疑惑がなんちゃらかんちゃらで」
「ごめん意味わからない」
土曜日の朝。休日だから雅さんのモーニングコールも来ないためゆっくり寝ていた時のこと。
桜花からの突然の電話に飛び起きた先には混乱が待っていた。
「本当に全部が理解出来ないけど、その理由になった疑惑ってなんなの?」
「知らないよー!あたしもお母さん達に聞こうと思ったんだけど聞くどころじゃなくて!」
「今お店どうなってる?」
「自警団の人達がぞろぞろ入って品物奪っていってるの!」
「はぁ!?」
「朝に雅お姉ちゃんのお父さんとお母さんが来てね?申し訳なさそうにお店の営業停止を言い渡したんだ。そしたらイカつい妖怪達が検品のために品物運び出して」
「い、イカつい妖怪…」
私は想像しただけでクラっと眩暈がする。しかしなんとか気を保ってリビングへと移動した。
今日は雅さんが出張から帰ってくる日。もしかして何か繋がりでもあるのだろうか。
「ねぇどうしよう!あたしの収入源無くなるじゃん!」
「そこかい」
「今度アニメの聖地巡礼しようと思ったのに…」
桜花の酷く沈む声が聞こえる。それと同時にお掃除ロボットのルンさんが業務を開始した。
「お姉ちゃんは雅お姉ちゃんに何か聞いてない?」
「特に何も。っていうかここ1週間は出張だったし」
「あ〜そっか。いつ帰ってくるの?」
「今日の予定。時間はわから…」
「雅お姉ちゃん帰ってくるの!?今日そっち行っても良い!?」
「はぁ!?」
本日2度目の“はぁ!?”が出てしまう。この妹は毎回毎回その日に決めるから対応に困るのだ。
いつもならここでため息をついて許可するのだけど…。
「今日は、ダメ」
「え?何で?」
「ダメなものはダメ!絶対雅さん疲れてるから!」
「え〜うるさくしないよ?ちょっと顔見るだけ!先っちょだけ!」
「桜花のちょっとはちょっとじゃないでしょ!?」
雅さんに対してはより図々しくなる桜花。
雅さんもそれを怒ることなく受け入れるから甘えに甘えてしまうのだこの妹は。
「とにかく今日はダメ!また今度ね!」
「しゃーないなぁ。今日はお姉ちゃんに譲ってあげるか」
「何様なの?」
私は一応呆れながらそう言うけど内心は不思議とホッとしている。
何となく今日は桜花に邪魔されたくないと思ってしまった。
「じゃあもし雅お姉ちゃんに何か聞けたら教えて!こっちもお母さん達から情報得れたらメッセージ送るから!」
「うん、わかった。……いてっ」
「え?何?」
「ルンさんのお仕事妨害しちゃったみたい」
足元を見れば私の近くをクルクル回っているルンさん。
この1週間は沢山お世話になった。
お掃除は勿論、食事中の私の話し相手としても活用させて貰ったのだ。
まぁ返事なんてされたことなかったけど。
「ルンさん?」
「うん、ルンさん。最近愛着湧いてきた」
「は?誰よその女。……お姉ちゃんまさか雅お姉ちゃんの出張中に浮気を!?」
「何でそうなる?」
これはネタでやっているのだろうか。でも声からして迫真すぎるからガチで思っている可能性は高い。
私はため息をついてルンさんを見ながら口を開く。
「あのさ。私が浮気なんてするはず」
「浮気、ですか?」
「ふぇ?」
すると背筋が凍った感覚になる。
私は壊れた人形のようにガクガクと横を向く。そこには私服姿でリビングの扉を開ける雅さんが居た。
なぜそこに居るのだろう。いや帰ってくるのはわかっていた。でも早くない?私が起きるのが遅かっただけ?
一度目を擦ってみるが紛れもなく雅さんはそこに立っている。
「うむぅぅぅ」
「お姉ちゃん?聞いてる?ルンさんって誰?」
「小春様?浮気って……」
耳からはメンヘラ系のように問い詰めてくる妹の声。
そして視界には顔を真っ青にして固まる許嫁。
私は数秒頭の中が宇宙空間になった。
「ふぅーーっ…………良い?桜花。ルンさんっていうのは最新型お掃除ロボットの名前。今部屋中をピカピカにする命令を遂行中なの。信じられないのなら写真送る。後、私は雅さんを裏切るようなことは絶対しないから。覚えておいて。それじゃあまたね」
私は桜花の返事も聞かずに通話を切る。足元にはまたルンさんがやって来て迷惑そうに回っていた。
「ルンさんのことでしたか」
「お、おかえり、おかえりなさいませ……」
「ただいま帰りました。小春様」
「ワタシウワキシテナイ、デス」
「わかっています。一瞬でも不安になってしまったことをお許しください」
「いえ…」
あれ?もっと良い雰囲気で出迎える予定だったのに。
昨日の夜からどんな風におかえりを言うか考えていたのに。
「な、何でこんなに早く…?てっきり夕方とかだと…」
「始発で帰って来ました」
「連絡入ってましたっけ…?」
「申し訳ありません。忘れてしまいました」
「あっなるほど」
1週間振りの雅さんなのに最悪の出迎えだ。いや、出迎えにもなってない。
動揺を隠しきれない私は情けなくオロオロしていた。
「ふふっ。小春様」
「は、はい」
「私も小春様を裏切るようなことは絶対にしません」
「あ……」
「ただいま小春様。会いたかったです」
「……おかえり、雅さん」
浮気の単語で真っ青になっていた雅さんの顔は、ほんのり赤く染まった。
私も熱が移ったかのようにポカポカしている。
そんな中、いつまで経っても動かない私達にルンさんは戸惑うように別ルートを進み始めた。
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