第17話 今度は私が許嫁のために

「ふぅぅぅん……」

「新しい唸り方ですか?」

「ど、どうなんでしょう…?」

「とても個性的で可愛らしいですね」

「それ褒めているんですか?」

「はい。可愛いです」


 妖怪の手に自分の手を重ねられたからと言ってそれが続くわけではない。

 平日恒例の見送り握手チャレンジは変わらず指先タッチで精一杯だった。


 ちなみに腹筋の件は丁重にお断りしておいた。今の段階で私は雅さんの隠れた部分を見ることは出来ない。

 心の準備もその権利だって無いのだ。


 まぁ桜花は知っているというのにはモヤっとしてしまうが。


「今日は正午から雨予報ですので傘をお忘れなく。小春様は低気圧による体調不良はございませんか?」

「それなら大丈夫です」

「ではこの頭痛薬は薬箱にしまっておきます」


 わざわざ頭痛薬用意してくれたんだ。本当に雅さんは私への気遣いが凄い。


 時々、「気遣い出来なくて」なんて謝っているけど私からすれば気遣いの塊だった。


 でも現在気遣われるのは私じゃなく雅さんではないだろうか。


「あの、やっぱり体調悪いですか?」

「え?私がですか?」

「顔色が悪い感じには見えない……っていうかあまり顔をジッとは見れてないんですけど何となく雰囲気が違うと言いますか」


 調子が悪そうより疲れているの表現が相応しいかもしれない。

 桜花にこの前相談したことは1週間経った今も未解決だった。


「……私の対応、疲れましたかね?」

「何を言っているんですか。そんなの思ったことありません」

「でも質疑応答会の後から疲れているような感じがしまして」

「質疑応答会の後…」


 雅さんは顎に手を当てて考え込む。するとピクリと眉を動かした。


「小春様、学校大丈夫ですか?」

「あっもう時間!?」

「小春様!傘をお忘れなく!」

「は、はい!すみません!この話はまた夜に!」

「わかりました。いってらっしゃいませ」


 私はスマホで桜花から連絡が来てないか確認する。まだ何も通知は届いてないのでマンションの前で待っているはずだ。


 私は雅さんに頭を下げながら傘を持ち、家から出て行く。

 扉を閉める際に見えた雅さんの顔はいつも通りだった。


「勘違い?」


 一瞬そう過ってしまう。しかし雅さんへの違和感は簡単に消えることなく、私を不安にさせた。


「……よし」


 エレベーターに乗り込んだ私は1人の空間である決意をする。

 今回は私が雅さんに気を遣う番だ。


 とりあえず放課後は寄り道をして美味しいプリンを買っていこう。

 この前の質疑応答会での経験が今日活かされるはずだ。

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