第46話 鬼の香り
「雅さんは私のことを私より知っているのに、私は雅さんのことを全然わかってません。そりゃ高校生のガキが何か役に立てるとは思いませんけど」
小春様は脇腹から手を離して俯く。優しい性格だからこそ、そのように思ってくれるのだろう。
「そんな悲観する必要はありませんよ。小春様だって他の人には知らない私のことを知っているじゃないですか」
「脇腹が弱いとか…?」
「ま、まぁそれもそうですね」
本当は知られたくなかったし、自分も知りたくなかったことだけど仕方ない。
私は安心させるように小春様の髪を撫でる。
「私は意外と泣き虫です」
「確かに…。でも感情を出してもらった方が私は嬉しいです」
「小春様の前では犬のようになってしまいます」
「もしかして犬みたいって言ったの気にしてます?」
「後は、なぜか小春様関連になると財布の紐が緩みます」
「それは直して欲しいです」
同じ認識をしていたのか私達は小さく笑う。
高性能で良い値段をしたルンさんや、桜花ちゃんを混ぜて食べた特大サーモンなど、今思い返せば凄い買い物をしたのかもしれない。
でも小春様が喜んでくれるのなら望むものは何でも叶えたかった。
「そしてこれは小春様は知っているかわかりませんが」
「何ですか?」
「結構私は嫉妬深いです」
「……何となくわかってました」
正直これは最近自覚したものだ。
玉藻前を強く敵視するのは勿論、うさぎのぬいぐるみにまで私は嫉妬した。
とは言っても後者をライバル認定することはもうないだろう。
過去と現在では全く状況が違うから。
「縛りつけるつもりはありません。誰にも渡すつもりもありませんが」
「っ……」
照れているのか小春様の耳は真っ赤に染まる。
私は先ほどの仕返しと言わんばかりに、髪を撫でていた手を耳へ移した。
「むぅぅ」
「ふふっ。覚悟の上でしたものね?」
「だってそれは…」
「ええ、わかってますよ。けれど今は私に任せてくれませんか?」
小春様の気持ちはとても嬉しい。しかし現在の状況で小春様を頼ることは出来ないのだ。
私はゆっくりと耳を触り続ける。
すると小春様は拗ねた表情のまま私に飛び込んできた。
「……何を隠しているんですか?」
小さく聞こえてきた問いに私は伏し目がちになる。
そして心の中で精一杯の謝罪をした後、小春様の耳に口を寄せた。
「ちょっ!!」
私はリップ音を立てながら何も言わず、可愛らしい耳にキスをする。
質問に答えず弱点をいじめる私に小春様は抵抗するが、腰と肩をガッチリ掴んで逃さなかった。
「雅さん…!」
汚い大人の誤魔化し方だ。
私はまだ小春様に伝えることは出来ない。だからせめてこの話を流せるように誤魔化そう。
こういうところは玉藻前と大して変わらないかもしれない。
「耳……やだぁ…」
「愛してます。小春様」
私は耳をいじめながら自分のフェロモンがどれくらい掛かっているのかを確認する。
やはり日が経つに連れて徐々に私のフェロモンが消えていっているような気がした。
そしてその代わり、別の香りが小春様を纏い始める。
それは紛れもなく自分自身もよく知っている“鬼の香り”だった。
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