第47話 神楽姉妹を守る妖怪達

「ほら、これが森の中に忘れていったバッグ。つーか何入ってんだよこれ」

「全部小春様用の熱中症予防グッズよ」


 実家の縁側にドサっと置かれた私のバッグ。あの日に持っていた物だが、色々あって宵楽に回収させていた。


「色々とありがとうね。とりあえずこの前のサポートの報酬はこれで良い?」

「ああ」


 私は隣に座った宵楽に用意していた袋を渡す。宵楽は中身を確認すると嬉しそうに鼻で笑った。


「これだこれ。雅が作る野菜たっぷりの煮物」

「大量にあるから残りは冷凍しておいて。それにしてもこんなので良いの?」

「十分。我はそこまで大きなことをやっていない。結局、嫁さんの魅了が解けたのは雅のお陰だろ。随分と熱烈なマーキングをしたようで」


 ニヤつく宵楽の言葉で私の顔には熱が籠る。

 そう、あの日宵楽は私達の側に居た。


 とは言っても間近に居たわけじゃないから小春様は宵楽を知らない。

 今でもあの場には私達2人きりだったと思っているだろう。


「……今回は貴方の力もあって小春様を助けられたから何も言わないけど、普段なら殴っていたわよ」

「ハッ、怖い怖い」


 からかう笑みを浮かべる宵楽に腹が立つが、玉藻前の幻や濃い霧を消し飛ばしてくれたのは紛れもなくこの妖怪だ。


 風を操る天狗だからこそ出来る戦い方。

 きっと宵楽が居なかったら、小春様は長時間あの空間に玉藻前と居たのかもしれない。


「それで嫁さんの様子はどうよ」

「私を怖がることも無くなってとても甘い生活を送っているわ。でもまだ初心だから反応は相変わらず可愛いんだけど」

「あーはいはい」


 幼馴染の惚気話を聞く気がない宵楽は煮物が入ったタッパーに手を伸ばす。

 そして人参を摘み上げて味わうように食べた。


「うん。美味い」

「それは良かった」

「嫁さんにも作ってんの?これ」

「ええ。お肉を追加して育ち盛りでも美味しく食べれるようにね」

「ふーん。それなら育つわ。雅ほどとは言わんけど」


 宵楽の視線は私の胸部に向けられる。すぐに意味を理解した私は宵楽のすねを足で蹴ってやった。


「いでっ」

「それじゃあ次はこっちからの質問なんだけど、玉藻前の調査はどんな感じなの?」

「いちち……んなの進展無しに決まってんだろ。改造された妖具はまた神楽雑貨店の物だってことしかわからなかったし」

「購入者リストの確認は?」

「あの日の数日前に1人買ったらしい。そんでその日の店番は桜花だったんだが」

「桜花ちゃん…」

「どんな人が買っていったか忘れた〜だとさ。本当に使えねぇ」

「宵楽」

「はいはい」


 流石に桜花ちゃんでもお店に来た人の顔なんて覚えてないか。

 それでも玉藻前が直接来たのは間違いないだろう。


 しかし桜花ちゃんは奴の顔を知っている。一目見れば気付くはずだ。

 となれば奴が整形でもしたかあるいは……。


「そういや最近桜花のテンションが高くてうぜぇんだけど」

「桜花ちゃんはいつもテンション高いわよ」

「それ以上にだよ。なんかベタベタ触ってくるし」

「………」


 まさか宵楽のことを好きにでもなったのだろうか。私は可能性の1つを思い浮かべてみる。

 まぁ何がともあれ桜花ちゃんがその気なら私は応援しよう。


「桜花ちゃんがそうなら貴方は自然体でいた方が良いわ。それが桜花ちゃんにとっては燃えるはず」

「は?何言ってんの?」


 宵楽は不審そうな顔をするが私は知らないふりをしておく。


 応援はするけど邪魔はしない。桜花ちゃんはそうやって私と小春様のことを繋げてくれたから。


「それじゃあ私は行くわね。なるべく小春様の側に居たいから」

「へいへい。我もそろそろ桜花の所に行かなきゃな。ったくいつまで護衛をさせる気か…」

「小春様が完全に変異するまでじゃない?」


 私は縁側から立ち上がって空を見上げる。暑い日差しと蝉の声が夏を感じさせた。


「……宵楽。小春様が変異する前に一度会ってくれる?」

「我は構わん」

「ありがとう。小春様にも知っておいて欲しいの。私以外にも助けてくれる妖怪は居るって」

「そうか」


 宵楽はまた煮物をつまみ食いする。帰る前に無くなってしまうのではないだろうか。

 私は横目でそれを見ながら小さく笑った。


「桜花ちゃんもだけど、貴方なら小春様とも仲良く出来ると思うわ」

「んじゃあ雅の前で小春サマ口説いてやろうか?面白いの見れそうだし」

「宵楽?」

「な、何でもねぇよ」


 私が低い声を出せば宵楽はそそくさと煮物が入ったタッパーを袋にしまう。

 そしてそのまま逃げるように仕事場へ戻って行った。


 私はため息をついて実家を背に歩き出す。


「プリンでも買っていこうかしら」


 小春様はきっと家で学校の課題をやっているだろう。

 私とデートが出来るように必死に終わらそうとしているところが本当に可愛い。


 せっかくなら少し奮発しようか。

 私は口角を上げながら慣れないスマホを手にして、周辺の美味しい洋菓子店を検索し始めた。

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