第36話 暴れるほど大切な謎の黒い絵
桜花は両隣に居る私と雅さんに絵を見せつける。
勿論覚えていた謎の絵は17歳になった今見ても不気味だ。
何でそんな物を持ってきたのだろう。
「もしかしてこれがこの前通話で言っていた絵ですか?」
「そ、そうですね。本当に自分でも何なんだろこれって思ってます」
「残っていたのがこの3枚。でもお姉ちゃん無限に書いていたよね?」
「うん……」
見れば見るほどゾッとする絵だ。一応人のような形はしている。
しかし全てが黒く塗り潰されているせいで影のようにも見えた。
「お姉ちゃん覚えているかな?お姉ちゃんが遊んでくれなくて、あたしがお姉ちゃんの描いていた絵を破ったら凄く暴れたこと」
「それは覚えてないなぁ。いつの話?」
「この絵大量生産してたのって幼稚園の時だから…それくらい?」
「確か小学校に入った途端、飽きて辞めたんだっけ」
「あたしとしては不気味な絵が嫌いだったから良かったけど」
桜花は自分が持ってきたくせに嫌そうな顔つきで絵を眺める。
すると横から雅さんの手が伸びてきて1枚だけ桜花の手から抜き取った。
「失礼します」
「雅お姉ちゃん?まさかこの絵に価値があると思ってるの?」
「価値と言いますか……少しジッと見たくなりまして」
「やめた方がいいよ。夢に出てくるってこの化け物」
「桜花」
幼い自分が描いたからだろうか。私が馬鹿にされているような気がする。
愛着は微塵も湧かないけど。
「小春様が書いたこの絵、大体構図は一緒なのですね」
「まぁ幼稚園児が描いた絵ですからね」
「毎回同じ形で同じ絵を描くから飽きたんだよ。そういえばお母さんが言ってたんだけど、お姉ちゃんがこの絵を描いている時はいつになく静かだったらしいよ」
思い返せばそうだった気がする。
描いていた当時の心境は思い出せないが、あまりにも没頭するせいで家族から「将来は画家だ」なんて言われていた。
けれど現実は小学校に上がった瞬間に筆を折ったのだが。
それにしても雅さん、真剣に見つめすぎではないですか?
「み、雅さん。そんなに引き込まれますか?それ」
「ええ…」
「雅お姉ちゃんって感情がロマンチックなのかも!……あいつにこれ見せた時は焦げた獣人みたいなんてロマンチックもクソもないこと言っていたけど」
「桜花、あいつって?」
「んえ!?あっいや友達のこと!最近出来たぶっきらぼうな友達!」
「へぇ」
この子はまた友達というものが作れたのか。高校に入ってからどれくらいの交友関係が広がったのだろう。
それに比べて私は1人で過ごすのがデフォルトだ。
雅さんもそのことを知っているから意識して友達の話題を避けてくれるようになってしまったし。
「獣人……確かにそう言われればそう見えますね。これが耳で、こっちが尻尾でしょうか」
雅さんは細く綺麗な指で私の絵を差している。そして真っ黒な絵をひと撫ですると私と桜花に顔を向けた。
「この絵1枚だけ貰ってもよろしいでしょうか?」
「えっ!?逆に必要なんですか!?」
「お姉ちゃん。きっと雅お姉ちゃんはあたし達と違って芸術センスがあるんだよ」
「そ、そうなの?」
「センスがあるかどうかはわかりませんが…。でも小春様が描いた絵なら欲しいです」
「ふふーん。お姉ちゃん愛されてますね〜。普通こんな絵誰も欲しがらないよ」
また馬鹿にされたように感じるけれど間違ってはいない。
雅さんも本気のようだし私は渋々頷いた。
「ありがとうございます小春様。大切にしますね」
「次のゴミの日に捨てて良いですよ…」
「そんなことしません。大切に保管しておきます」
「うぅぅ」
また雅さんの全肯定が発動している。私はそれを唸りで返すと小さく笑っていた。
「……2人ともだいぶ変わったよね。勿論良い方向にさ。まぁその分あたしが不利になるんだけどね〜」
「桜花?」
「ちなみに!どこまで進んだんですかぁ?奥さん達」
「はい?何言ってんの?」
不気味な絵を紙袋に入れながら桜花はニヤつき始める。
この顔は変なことを考えているに違いない。
「だーかーらー!ハイタッチ以外に何出来てんの?握手は?ハグは?もしかしてキスまで進んじゃった?」
「何言ってんの!?」
私は大声を出しながら桜花の頬っぺをつねる。雅さんは耳を赤くして気まずそうに絵を見ていた。
その反応は桜花を誤解させるだけだと思う。
「雅お姉ちゃんのその反応……まさかキス以上も……」
「そんなわけない!」
私は激しく首を横に振れば桜花は複雑そうな表情になる。
一体何を思っているのだろう。
そもそも私が雅さんとキス以上なんてあり得ないから。キスだってあり得ないんだし。
すると追い打ちをかけるように、黙っていた雅さんは小さな声を出す。
「あの桜花ちゃん」
「なぁーに?」
「実は先日、小春様が私の腹筋を触ってくれましたよ」
「は?」
この前のことを思い出したのか雅さんの顔は余計に赤くなる。
そして私も同時に弱点で遊ばれた感覚が蘇った。
「べ、ベッドインってこと?」
「違う!!」
流石にここまで深掘りしようとは思ってなかったみたいで、桜花は珍しく動揺していた。
結局からかいに来たのか思い出の品を届けに来たのかわからなくなってくる。
私は自分を落ち着かせるためにこっそりと後ろ手でうさぎのぬいぐるみに触れた。
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