第10話 質疑応答会(1)

「少しデザートを作りすぎてしまいました…」

「い、いえ。全部美味しそうですよ」


 どら焼き、フルーツ大福。あんみつにコンビニのプリン。

 様々なデザートがソファ前のテーブルに並べられている。


 プリン以外は手作りのようで見た目の綺麗さに二度見してしまった。


「料理のプロ…?」

「そんなことありません。単純に心得えと張り切りがあっただけです」

 

 だとしてもお店で食べるような見栄えだ。それに雅さんが作る料理なら味も保証つきだろう。


「それでは小春様、よろしいでしょうか」

「はっ、はい!覚悟は出来てます!」


 全ての準備が整った私達はソファに座って身体を向かい合わせる。


 お互いに質問リストを持ち背筋を正す姿は側から見れば面接だ。

 きっと桜花が居たらツッコまれるのだろうな。


「小春様からどうぞ」

「じゃあまず知りたいことは……雅さんの仕事です」

「えっ?お仕事?」

「も、もしかして秘密事項でしたか?」

「いえそういうわけではなく。ただ質問リストの1番上に書かれていたことと違ったので」

「まさかリスト全てに目を通していたんですか!?」

「そんなことはしていません…!見えたのは“雅さんへの質疑応答会”の文字と“好きな食べ物”の質問だけです」


 またその名称を言われてしまい私は質問リストで顔を隠す。

 きっと悪気は無いのだけどダサいから言わないで欲しい。


 しかも1番最初に書いたありきたりな質問まで見られていたなんて。


「すみません小春様」

「謝らないでください。あの…大丈夫なので質問の答えを…」

「私のお仕事についてですね。かしこまりました」


 雅さんは自分のノートを抱えながら顎に手を当てる。何かを考えているようだ。

 まさか言葉を濁すような仕事なのだろうか。


 でも桜花が知っているということはちゃんとした仕事なはず。

 そうじゃないと雅さんは桜花に話さないだろう。


「妖怪の話が出ますがよろしいですか?」

「あ、はい」

「簡単に言えば私は妖怪の警察的なお仕事をやっています。妖怪達は自警団と呼んでいますね」

「警察ですか?」

「鬼族は普通の妖怪と比べて身体能力が高いんです。なので鬼族の大半は守りや戦いをするような職業に就くことが多いのですが」

「知らなかった…」


 今の今まで妖怪とはなるべく関わらないようにしていたから、鬼族の特徴さえ初耳だ。


 それに妖怪の職業を聞くのだから妖怪の話が出るのは必然。

 また雅さんに気を遣わせてしまった。


「私の家系は先祖代々、自警団をまとめる役割を担っているのです。両親も祖父母もみんな自警団なので流れのように私も同じお仕事に就いた感じですね」

「へぇ……」

「いつも小春様を見送ってひと通りの家事を終えた後に出勤します。付近の見回りや悪い妖怪の逮捕。違法の妖具ようぐの処理などが主な業務です」

「い、違法の妖具!?」

「ご安心ください。神楽雑貨店は合法ですよ。毎月私の両親が検査を行っているので信頼度も高いですし」

「それなら良かったです…」


 シール貼りは手伝っているくせに私は実家で何を売っているか詳しく知らない。

 しかし妖具と呼ばれる物が沢山置いてあるのはわかる。


 妖具は妖怪達に必要な物だと神楽雑貨店のボスである祖父が言っていた。


「それにしてもなぜ私のお仕事を質問リストに?」

「この前、桜花に言われたんです。雅さんの仕事くらい知っておけって」

「そうでしたか。私達はお仕事で神楽雑貨店の妖具を使うことが多いので、桜花ちゃんには時々お仕事の話をしているんです」

「だから知っていたのか」

「ちなみに私がお仕事をしている場面を見たこともありますよ」

「取り締まりをですか?」

「はい。気になるのでしたら今度お話しします。しかしこのことは桜花ちゃんには聞かないように」

「それは何で…?」

「質問出来る相手がここに居ますので」


 雅さんは自分の胸に手を当ててアピールする。私はコクコクと頷いて持っていたペンをノートに走らせた。


「雅さんの仕事は妖怪の警察っと」

「一応妖怪の相手が専門ですが、人間相手でも対応は可能です。何かあればすぐに教えてくださいね。小春様のことは私が守ります」

「わ、わかりました」


 鬼族に相手された人間ってどうなるのかな。身体能力が高いということは簡単に腕をへし折れるとか?

 私はヤバい方向に腕が曲がるのを想像して冷や汗をかき始める。


「小春様、あんみつはいかがでしょうか?」

「タベマス…」


 何かを察したらしい雅さんは私にあんみつを勧めてくれる。

 すぐに変な方向に考えてしまうのが私の悪い癖だ。妖怪関連になると余計に発揮される。


 私は自分に呆れながらテーブルに乗せられているあんみつへ手を伸ばす。

 すると途中で雅さんに呼ばれた。


「小春様。つまみながら私の質問に答えてもらうことは可能でしょうか?」

「あっはい。大丈夫です」

「なにせノートの半分以上質問事項が書けてしまいまして」

「ノートの半分!?」

「聞きたいことが沢山あるのです。流石に今晩で全ては無理そうなので、行けるところまで行けたらなと」


 私の質問リストはルーズリーフの1枚半で終わったのに雅さんはその倍以上。 


 人間の私にそんなに尋ねることなどあるのだろうか。いや、人間だからこそあるのかも?


「じゃあ次は雅さんからの質問、どうぞ」

「はい。それでは1番聞きたいことを先に質問させて頂きます」


 私は美味しいあんみつを噛み締めながら雅さんの質問を待つ。

 ペラペラと数回ノートを捲った雅さんは小さく深呼吸すると私の顔を見た。


「小春様の好きな女性のタイプを教えてください」

「ゲホッゲホッ!」


 あんみつは私の喉の変な部分に触れて胃へと落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る