第28話 スケールが違うお土産
雅さんが大量のお土産を広げている間、私は神楽雑貨店の件について聞かされた。
今回の出張は最近妖怪の間で起こっている集団暴行事件の調査のため。
そしてその調査で不審な妖具が見つかり、それは神楽雑貨店で作られた物だったらしい。
「そんなことが…」
「はい。しかし神楽雑貨店の営業停止は自警団の者達も仕方なくやっていることなのです。老舗で信頼のある神楽雑貨店は妖怪達の憩いの場でもありますから」
「営業停止っていつまでの予定ですか?」
「とりあえず父から聞いているのは品物全ての検品及び店内の調査。神楽家からの事情聴取。それが全て終わっての結果次第です」
「じ、事情聴取…?」
「ご安心ください小春様。小春様はこの場で簡単な質問を答えれば終わりです」
雅さんは台所とリビングを行ったり来たりしながらお土産を片付けている。
だいぶ冷蔵庫の中は減らしたけどそれでも少し作り置きは残っている状態だった。
でもきっと整理術で全部入れてしまうのだろうな。
「小春様は神楽家で唯一、雑貨店に関わりが少ない方です。なので形だけの事情聴取で良いと父に言われました」
「えっ?今からですか?」
「緊張する必要はありませんよ。小春様は最近お店の仕事を手伝ったか。そして他の妖怪と関わりを持っているかを教えてくれれば十分です」
なるほど。確かに私は神楽雑貨店を手伝う頻度が極端に少ない。
それは雅さんと暮らす前からだ。
でも良かった。知らない妖怪に長い事情聴取なんてされたら私はギャン泣きの末気絶したはず。
「仕事はこの前桜花とシールの貼り付けをやりました。雅さんに神楽雑貨店の新商品が入ったって教えた時です」
「あの時ですか」
「その後に雅さんが泣いちゃって……」
「小春様!それは忘れてください!」
「は、はい!すみません!」
思わずポロッと言ってしまった。でも雅さんが泣く姿なんて滅多にないだろうから忘れられない気がする。
「ええっと。他の妖怪と関わりを持っているかなんて質問は私を見ているとわかると思いますけど…」
「そうですね。でも一応形として」
「絶対にあり得ません」
「ありがとうございます。それでは調査協力のご褒美兼お土産です」
すると雅さんはソファに座る私に紙袋を差し出してくれる。
私へのお土産という言葉に心が躍り、感動の声と共に受け取った。
「ありがとうございます!ここで見ても良いですか?」
「勿論です」
雅さんはひと通りの片付けが終わったのか私の隣に腰を下ろす。
それでも1人分の間を空ける優しさは変わらなかった。
私は袋に手を差し込んでお土産を開ける。
雅さんからのご褒美兼お土産は淡い色をした肌触りの良いハンカチだった。
「凄い綺麗…!嬉しいです!普段使いしますね!」
「喜んでもらえて何よりです。本当は別の物も買おうと思ったのですが、幼馴染に止められまして」
「幼馴染?」
「はい。天狗の一族の者です。幼馴染という関係や能力的な面でよく仕事を組まされるのですよ」
「雅さんの幼馴染…」
「あっ、申し訳ありません。気を悪くしてしまいましたか?」
「そんなことないです」
私は首を横に振って微笑む。
妖怪嫌いな私に他の妖怪の話をしてしまったことを気にしているのだろう。
どこまでも優しい妖怪だ。
「……むしろ雅さんの周りの話を聞けて嬉しいなって思ってます」
会話の流れとかそんなの関係なく話が聞きたくなってくる。
もしかしてあの日私がした決意が実を結び始めたのだろうか。
それでもまだ雅さんの顔をずっと見ているのは出来ないし、ハイタッチ以上のことは震えてしまう。
私はお土産のハンカチを大事に抱えながら小さく笑った。
「だから色々と聞かせてください。出張中のお話、まだ全然聞けてないので」
いつか妖怪嫌いが直ったら天狗の幼馴染さんにも会える日が来るかもしれない。
今は想像しただけで鳥肌が立つけど、雅さんの幼馴染となれば不快感は無かった。
「……いけませんね」
「雅さん?」
「気を抜いたら泣きそうです」
私は驚いた顔で雅さんの方へ振り向く。雅さんは口元に手を当ててじわりと目を潤ませていた。
雅さんって意外と泣き虫?
「えっいや、あの」
「……失礼致しました。では明日にでも桜花ちゃんを混ぜて出張のお話をしましょう」
「ん?桜花も?」
「小春様へのお土産はこれだけではないので」
軽く目尻を拭った雅さんはいつもの凛とした表情に戻る。
「実は明日、北の地方で漁業を営む八尾比丘尼に頼んだ新鮮なサーモンが届きます」
「……へ?」
「私や父の存在を知っていたのか特大のサーモンを届けると張り切っていらっしゃいました。そういうわけで明日は桜花ちゃんを混ぜてサーモンパーティを開きましょう」
「ま、待ってください」
「捌くのは私にお任せください。きっと残るはずなので神楽家や私の実家にもお裾分けをする予定です」
そういえば質疑応答会で言った。私は生姜醤油でサーモンのお刺身を食べるのが好きだと。
でもまさかここに繋がるとは誰も予想出来ない。
張り切っているのは八尾比丘尼だけではなく雅さんもだった。
「ふふっ。小春様が喜ぶ姿を見れるのが楽しみです」
「は、はい…」
何となくわかった気がする。雅さんって私に関しての買い物のスケールがだいぶ大きすぎると。
その証拠の1つが今日の業務を終えて充電に戻ったルンさんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。